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優しい水
3日後、私達はまたプールで会うことになった。どうやら陸久が思い出してくれたようだ。
そうなると、私もいよいよ話さなければいけなくなるな。何から話すかまとめながら学校に向かった。
今回も、陸久は見つからず私が先だったようだ。
今日は朝から気温が30℃だったため軽い熱中症を起こしていた。めまいと頭痛が少しある。そのためプールサイドの木陰で休んでいた。
しかし、陸上部の練習があるのか、タイムの声や怒号が行き交っていてちっとも休める様子ではなかった。
今日も変わらず、水面はゆらゆらと木漏れ日を反射し怪しく輝いていた。
風で立った波紋は優しく私を手招いてるようだった。
ドボン――
気づいたら、やっぱり水の中にいた。どうしても楽になりたいようだ。
体に入ってくる水の感触は、3日前より優しく感じ、ちっとも怖くなかった。
水に身を任せ、自分と水が一体化するような感覚で沈んでいく。思考が、感覚が、記憶が、溶けていき……
ドボン――
突然の轟音と、温かい手が私を現実に引き戻した。
その手は、優しく温かく、少し震えてた。まるで何かを失うのを怖がるこどもの様に。
「ゲホッゲホ……」
「俺が言ったこと…忘れたの……かよ。」
息も絶え絶えになりながら、陸久は私を問い詰めた。
その形相は、怒ってるようで泣きそうなようで呆れてるようで、複雑だった。
かなり怒ってるようだけど、私にはその理由がわからない。
「ゲホッ……おえっ……。忘れて…ないよ。
ただ……なんか、どうでもよくなって、楽になりたいなとか思ったら気づいたらこんなんになってただけ。」
小さくため息を吐いた陸久は背中を少し擦ってきた。
そのため息には呆れの感情が、手には同情の気持ちが含まれていたように感じた。
背中を擦る優しいリズムに合わせて徐々に息を整える。
少し落ち着いてきた私は、前に話したときと同じようにぽつりぽつりと話し始めた。
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