崩壊

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留めなく流れる涙を止めるのに、どれくらいかかっただろうか。 短かったような、長かったような。 その間も、陸久はずっと私を抱きしめてくれてた。優しく包み込んでくれた。 時折心配そうに、頭をなでてくれて、まるでこどもをあやすような仕草だった。 やっと流れ落ちる涙が枯れてきた頃、陸久はそっと私を離してどこかへ行ってしまった。 抱きしめられていたところが、”まだ足りない”とでも言うかのように少しだけ疼き、引き止めたかった。でも、その力が私にはなかった。力なく、その場でどこかに行く陸久をただ眺めてるしかできなかった。 しばらくして帰ってきた陸久の手に2本の紅茶のペットボトルがあった。 どうやら、ぬるくなってしまったお茶を新しく買ってきてくれたようだ。 「飲む?さっき買ってたのが紅茶だったからこれ買ってきたけど。」 私は無言でその手から一本とった。 紅茶の甘さと香りが胸に広がり、また涙が溢れそうになった。 「泣いちゃえばいいんじゃない?どうせ俺以外誰もいないんだし。」 「もう十分泣いたよ。」 今、ちゃんと微笑めてただろうか。心配させてないだろうか。 「無理してるようにしか見えないんだが。」 あぁ、だめだったか。どうにかして笑わないと、これ以上迷惑かけたくない。 「迷惑かけるなんて思わなくていいよ。」 心が読めてしまうのか、なぜ私の思ってること全部に答えてくれるのか。 「今、なんでこいつ全部わかってるんだよって思っただろ。」 完全に読まれてる。 私は少しだけ焦った。自分の思ってることが相手にバレてるなら、心の黒い部分まで全部がバレちゃうのではと思ったからだ。 「図星だな。気づいてほしいこと、全部顔に出てるんだよ。いつもの何十倍もわかりやすい。」 思わず恥ずかしすぎて顔を下に向けてしまった。 しばらくなにも言えなかった。顔も見せたら自分の思ってることが全部バレてしまうのではないかと思いあげられなかった。 そんな時間が続き日が少し傾き始め赤みがかってきた頃私は言った。 「話せること、もうないけどどうする?」 私の知ってることは、もうない。 けど、こうして話すことで癒やされてるように、救われてるように感じている自分がいたから陸久に会いたいと思ってた。 有益な情報はない、けど陸久にあいたい。最初の考えからはかけ離れてる。それでも会いたい。 たぶん、私はこの人といる時間が今一番好きなんだと思う。 この時間だけ本当の私でいられて、何でも包み隠さず言えて、楽でいられるんだと思う。 たった2回しか話してないのにそう思ってしまう私は単純なのだろうな。 空は、朱と蒼が混ざり複雑な色をしていた。 「俺としてはまだ聞きたいことあるけどな。まだ話せることもあるし。」 「じゃあ、また来てもいい?」 「いいよ。」 「ありがとう。」 今度はちゃんと微笑めてたと思う。彼を少しでも安心させたかった、そこから現れた自然な笑顔だったと思う。
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