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原因はなに?
木陰に入って少し落ち着いてから、私はゆっくり陸久を横目で見てみた。
いつもと変わらずに髪の毛と服の水気を絞り、服を乾かしている様子に特に変なところはない。
何一つ、いつもと違うところはない。
そうなると、あれは私の思い違いだったのだろうか。
悩んでる様子が伝わったのか、陸久が心配げにこちらを見てきた。
その顔もいつもとなにも変わらず、お人好しで優しいかおだった。
「なにか考え事?」
「少しだけね、君になにか話せることがまだあるか考えてたところなんだ。」
「それならさ、もう一つ聞きたいことがあったんだけど。」
「何について?」
陸久は少しためらっていた。質問することが憚られるような質問なのだろうかな。
それでも意を決したように彼は一息ついてこういった。
「そもそもなんでストーカーにまで発展したの?」
風が凪いだ。まるで私の心のようだ。
いつかは言わなくちゃいけないこと、この事件を説明するには避けて通れない関所のようなもの。
だから、特別怖がることではないし、驚くような質問でもなかった。
風が吹き、プールの水面がざわつく。
さっきまできれいな鏡のようだったが今はさざ波が立っている。
「どうしても言わなきゃだめ?」
頭ではわかっていた。いつかは言わなくちゃいけないことだってことが。
でも、本能がそれを許してくれなかった。
陸久に知られたくない、幻滅されたくない。
そんな気持ちが先走ってついで出た言葉だった。
「まぁ、言わなくてもいいっちゃいいけど……わかってるんじゃない?
本当は言ったほうが話がわかりやすくなる、言わなきゃいけないってことが。」
なにも言えなかった。
確かに陸久の言うとおりだ。完全に図星だった。
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