原因はなに?

1/2
前へ
/38ページ
次へ

原因はなに?

木陰に入って少し落ち着いてから、私はゆっくり陸久を横目で見てみた。 いつもと変わらずに髪の毛と服の水気を絞り、服を乾かしている様子に特に変なところはない。 何一つ、いつもと違うところはない。 そうなると、あれは私の思い違いだったのだろうか。 悩んでる様子が伝わったのか、陸久が心配げにこちらを見てきた。 その顔もいつもとなにも変わらず、お人好しで優しいかおだった。 「なにか考え事?」 「少しだけね、君になにか話せることがまだあるか考えてたところなんだ。」 「それならさ、もう一つ聞きたいことがあったんだけど。」 「何について?」 陸久は少しためらっていた。質問することが憚られるような質問なのだろうかな。 それでも意を決したように彼は一息ついてこういった。 「そもそもなんでストーカーにまで発展したの?」 風が凪いだ。まるで私の心のようだ。 いつかは言わなくちゃいけないこと、この事件を説明するには避けて通れない関所のようなもの。 だから、特別怖がることではないし、驚くような質問でもなかった。 風が吹き、プールの水面がざわつく。 さっきまできれいな鏡のようだったが今はさざ波が立っている。 「どうしても言わなきゃだめ?」 頭ではわかっていた。いつかは言わなくちゃいけないことだってことが。 でも、本能がそれを許してくれなかった。 陸久に知られたくない、幻滅されたくない。 そんな気持ちが先走ってついで出た言葉だった。 「まぁ、言わなくてもいいっちゃいいけど……わかってるんじゃない? 本当は言ったほうが話がわかりやすくなる、言わなきゃいけないってことが。」 なにも言えなかった。 確かに陸久の言うとおりだ。完全に図星だった。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加