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私の覚悟
梶谷たちの訪問から数日後、剣道部の同級生が見舞いに来てくれた。
いつもの、3人組T君とM君とS君だ。3人とも元気がなく、どこかふさぎ込んだ様子だった。
「怪我の方は大丈夫か?」
重い口を開けたのは、Mだった。
こういう状況だと、真面目な性格が損となるな、なんか考えた私は失礼なのだろう。
「うん、大丈夫っちゃぁ大丈夫。まだ手足にしびれが残ってるけど。」
「そっか…悪かったな。」
「なにが?」
「守ってやれなくって、助けてあげられなくって。」
急に口を開いたのは、いつもなら明るくムードメーカーとなっているTだ。
しかし今は、すっかりしぼんでしまいげっそりとしている。
「ほんとは、一緒にいるべきだったんだ。でも…」
嗚咽混じりに言葉にしようとするTの背中をSが優しく擦る。なんだか、見ているこっちが悪者のように感じてきてしまった。
だから思わず言ってしまった、これが一番楽な解決法だと思ったからだ。
「私は気にしてないよ。だいたい何があったかは想像はついてる。だからこそ私はこの部活を出ていくよ。
これが一番の平和的解決方法だからね。それなら、誰にも迷惑かからないし。」
3人とも呆然としていた。
まぁ、そりゃぁそうなるよね。部活をやめるって言ったんだから。
でも、そうでもしないとこの事件は収まらないし更に迷惑かけることになると思う。
そんなのは私が許せない。被害者は私だけでいいんだ。
「そんな、わざわざ辞める必要はないだろ?」
「そうだよ、普通なら向こうがやめなきゃいけない事案なんだし。少し早計じゃないか?」
「朔夜がいなくなったら誰が女子を引っ張っていくんだよ。」
3人ともすぐに止めに掛かった。どうやら考えを改めてほしいようだな。
それでも、
「もう決めたんだ。私が今後部活に在席し続けることで皆に迷惑がかかるかもしれないし、ましてや周りに危害が及ぶようなことでもあったらそれこそ私が許せない。」
少しの間、静かな時間が訪れる。聞こえるのは、忙しない蝉の声だけだ。
その蝉の鳴き声でさえも遠くに感じていた。
沈黙に耐えられなかったのか、受けた衝撃が大きかったのかTがその場から走り去っていった。
”おい、待てっ!”といい、追いかけるようにSも部屋をあとにし、残されたのはMと私だけだった。
「後悔はないんだな?」
「ありまくるけど、無かったことにする。」
「そうか…、Tは説得しておくよ」
とだけ言い残し、その場を去っていった。
ほんとにMは真面目だな、その一言けっこうグサって来るんだよ?それわかってて言ったな、あいつ。
部屋に残ったのは、彼らが持ってきてくれた白いガーベラとカモミールの花束、そして
「うっ………うぅぅっ……」
小さな嗚咽混じりの泣き声だった。
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