プールの中の世界

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プールの中の世界

私が退院できたのは、既に夏休みの中盤頃でアブラゼミが煩く夏の日差しが痛い時期だった。 外に出ると溶けてしまいそうなほど暑く、約束を放棄してしまおうかなんて考えてしまった。 沿道の草木も暑さのためにしおれてる。まだ朝の9時のはずなのにこの暑さ、昼時は一体どうなってしまうのだろうか。考えるだけで、暑いはずなのに身震いがした。 約束―私が入院中に結んだ約束―を守るために私は、学校のプールに向かっていた。 私の学校は夏休みの間は自由にプールを使うことができる。しかし、学校のプールより大きい場所が近くにあるので使う人そうそうはない。 よほどの理由か、コミュ障か、単に物好きか、のどれかだろう。 だから、そこなら、誰も来る心配はないだろうということで毎週通っていろんな事を話すことになったのだ。 「暑すぎ……、熱中症になりそう。」 あまりの暑さについで出た言葉は、夏の暑さに対する恨み言だった。 十分程歩くと、私の通う中学校に着く。 学校が嫌いな私にとっては地獄でしかないこの場所。二学期があと少しで始まるのかと考えると憂鬱でしかな。 プールに向かうとまだ陸久は来ていなかった。 ゆらゆらと揺れる水面は、夏の強い日差しを反射し美しく輝いていた。まるで、どこかにいざなうように不規則に、ただゆらゆらと飛んでいる蝶々 のようだった。 あぁ、もう、楽になりたいな。 大きな音が鳴り、高く水柱が上がった。 周りに散った水しぶきは夏の光を受け、輝いてた。 私は、歪んだ外の景色を見ながら水が体に入ってくるのを感じていた。 意外と苦しいものなんだな、溺れるのって。 そう思っていると、いきなり私の服を誰かが掴んだ。 力強く引っ張って、私は水の中から引き上げられた。 「ゲホッ……カハッ…………おえっ」 入ってきた空気がとてもまずく感じる。 外の世界は息がしづらい。案外、溺れていたときのほうが楽だったのかもしれない。 顔を上げるとそこに陸久がいた。やっぱり君は私を助けるんだね。 「おまっ……バカじゃないの…かよ。」 陸久は息切れをしている。焦って飛び込んだんだろう。全身ぐっしょりで水が滴っている。 かくゆう私も全身ぐっしょりで、かなり涼しかった。 二人揃ってびしょ濡れで、服の下が透けて見えていた。 「楽になりたかったんだよ、少し疲れたんだ。」 「これから、話聞くのに死なれたら困るんですが?」 「水面が綺麗だったから、じゃあだめ?」 「俺の前で死ぬなよ……夢見が悪くなる。」 「そっか…。」 しばし息を整えたあと陸久が言った。 「あの日何があったんだ?」 やっぱり、踏ん切りがつかない。 話すこと、思い出すことですらためらわれる。 それでも、ようやく口に出した。あの日あった私にとって悪夢だった朝の話を。
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