神の家

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「本名を語って暴力団に入る…その結果を想像したら未来が見えなかったんですよ。事件の真相を暴いて元の生活に戻るとき、俺は本当の自分を見失う。元暴力団という肩書が俺自身を惑わすんじゃないかと思って怖かったんですよ。でもまあ…実際、元暴力団であったことに変わりはないし、記憶から当時の事を消すことはできないですけど…気持ちの切り替えにはなると考えたんです」 それを聞いた江原は「そうか…別に俺たちを騙そうとしてたわけじゃないんだな?」と、訊いた。 「騙すも何も、警察なら調べればすぐに分かると思ってましたし。彩羽には…いつか言わなきゃとは思ってたけど、今はまだ言うべきではないと……。組員がいる前でぽろっと本名を言われたらそれこそ俺の危機ですから」 彩羽は口唇を尖らせながらも納得したように頷いた。 「ならこの話はもういいだろう。野本…大丈夫だな?」 江原が野本の顔を覗き込むように言う。野本はまだ納得していないようだが、無言で頷いた。 ソファに座ると、彩羽がコーヒーを淹れて来た。 「ミルクと砂糖はご自由に」と、テーブルの上にミルクと砂糖を並べる。 「ありがとう。いつも申し訳ない」 江原はそう言ってブラックコーヒーを口にした。 「で、どうでした?峯藤さとは無事でしたか?」 岳が訊くと、江原はカップをテーブルに置きながら話し始めた。
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