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両耳からはジョナス・ブラザーズが流暢な英語でファンキーなメロディーを奏でている。 ふと、姿勢の正しい美しい男と横目だったが視線が合った。すらっとした長身、しかし筋肉はしっかりと備わっている。彼とは因縁の関係だ。こちらに気付かないはずがない。伊織はそう思いながら黙って立ち止まっている。 すると、彼が顔をこちらに向け、伊織を見て目を大きくした。 彼と正面からしっかりと目が合った途端、伊織の口元がほころぶ。しかし、それは誰にも確認できなかっただろう。 「野本…純一……」 伊織はぼそりと呟いた。 高性能イヤホンと大音量の音楽のせいで、自分で呟いた言葉も聞こえなかったが、おそらく彼らにも伊織が何を呟いたのか聞こえなかったはずだ。 伊織はイヤホンを両耳から取ると、充電器であるスティックにそれらを収めた。 デパート内の音がクリアに聞こえる。 子どもの泣き声、専門店で流れる音楽、足音やエスカレーターが動く鈍い音、アパレルショップ店員の話し声。 伊織に気付いた男は持っていた荷物を通路に落とした。そのすぐ後、彼の隣に立っていた男も荷物を落とし、二人一斉にこちらへ向かって走ってきた。
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