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それを聞いた野本が思い出したように「そういえば葉月さんは?」と、訊いた。
「お姉ちゃんなら詩音さんの家にお泊りだと思いますよ。職場に泊まり込むとか大ウソついてさ、バレないと思ってることがびっくりよ」
彩羽の言葉に江原が笑った。
「いいねぇ、若者は。おおいに青春したまえ」
そう言ってなぜか岳の肩を叩くから間違った解釈をしたようだ。
「彩羽、江原さんの許可が下りたよ」
そう言って抱き着いてくる。
「いや…許可の意味が分からない。私が許可していないし」
二人の様子を見ている愛音が「いいなぁ…俺もマリアさんとイチャイチャしたいなぁ」と、うらやまし気に声を上げた。
「いいから帰りますよ。これ以上迷惑はかけられませんから」
そう言って野本が愛音の襟首を引っ張ると、江原もまた岳の頭を軽く叩いた。
「お前も時間ずらして帰れよ。この家の人をこれ以上巻き込むな」
そう言うと、3人は「お邪魔しましたー」と言って家を出ていった。
岳は相変わらず彩羽抱きしめたまま何度も髪を撫でている。
「どした?」
彩羽が訊くと、岳が耳元で微笑む。
「こんな平和な日は久しぶりだなぁ…と、思って」
「暴力団に平和な日々なんてないよね」
彩羽もそっと岳の腰に手を回す。
「でもこんなことに巻き込まれたら彩羽は迷惑だよな。身の危険もあるだろうし…ごめん」
「あぁ…それはもう慣れたっていうか?別にいいよ」
「だけど…俺はキツイなぁ。彩羽を巻き込みたくない」
彩羽は岳の胸の中から顔を上げ、岳の顔を覗き込む。
「今更遅い。そんなに私の事が心配ならちゃんと守れ。そばにいて守り続けるか、今すぐ離れて二度と会わないかちゃんと決めろ」
彩羽に喝を入れられると岳は諦めたのか、それとも自分の弱さを受け入れたのか、ふっと笑った。
「やっぱ彩羽はいい女だな」
そう言って彩羽の顔を覗き込み、親指で口唇をなぞる。
彩羽はじっと岳の目を見つめていた。
するとゆっくり岳の顔が近づいてきて彩羽の口唇に軽くキスを落とした。
「今日は帰る。また…連絡する」
そう言うと、また口唇をなぞり、名残惜しそうに離れていく。
「気を付けて帰って」
彩羽が言うと岳はにっこり微笑んで玄関の方へ消えて行った。
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