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店の前に車を停めると、岳は運転席から降り、助手席のドアを開けてくれた。
「マスク」
彩羽に指摘され、岳は苦笑いを浮かべながらダッシュボードからマスクを取り出し装着する。
すると、今度は彩羽の身体を抱え上げて車から降ろした。
「そういうとこ!」
彩羽が指摘すると、岳は楽しそうに笑う。
そして彩羽の手を引いて歩き出した。
店のドアを開けると、前回来た時と同じように古びたベルの音がした。
「いらっしゃいませー」
声と共に不思議なにおいと白い煙が目の前を覆った。
岳は急に入り口で立ち止まり、それに気づかなかった彩羽は思わず岳の背中に顔をぶつけた。
「痛っ!!…岳さん?」
彩羽が訊くと、岳が彩羽を振り返る。
「ちょっと外で待ってて」
岳にそう言われ、彩羽が一歩後退すると目の前でドアが閉まった。
そのとたん、店の中から大声が聞こえてきた。
「清司!てめぇ、店で何吸ってんだこらぁ!!」
明らかに岳の声だ。その直後、「え?岳さん!!いや…これは違うんですよ!新作ができたっていうんで少し味見を」と男の声が聞こえる。
「味見っていうレベルじゃねーじゃねーか!サツに見つかったらどうするつもりだ!こんなん一発でバレるだろうが!礼美!換気扇回せ!消臭しろ!そもそもてめぇらな、ここはたまり場じゃねーんだよ!楽しみたきゃ自分の家でやれ!」
その怒鳴り声の直後、何かがぶつかって折れるような音が聞こえた。
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