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そしてシートベルトを締めながらもう一度聞いた。
「本気で行くのか?帰るなら今の内だぞ」
彩羽はマスクを顎まで下げると、岳のネクタイを掴んで引き寄せた。そして額のマスクも顎まで下げる。
「嘘つき」
彩羽はそう言うと岳の口唇に自分の口唇を押し当てた。軽い口づけだった。
岳は驚いて彩羽を黙って見ている。
「今までみんなの目を欺いてきたから自信があった?」
彩羽が岳に訊く。
「どういう意味……?」
「あなた、警察官でしょ?」
岳は更に目を見開いて彩羽を見つめる。
「やっぱりバレてないと思ってた?私が何年警察官の知り合いとやり取りしてたか分かる?正直…ヤクザの事は分かんないけど、警察官の事ならそれなりに分かってるつもりだよ。立ち振る舞いとか、姿勢とか…一般人にはないぶれない軸?みたいのがあるもん。警察学校で学んだことを継続してやってるからだよね?それに…店から出てきた人、誰一人ケガしてなかった。ヤクザのフリして暴れただけで、誰にも危害を加えるつもりはなかったんでしょう?」
彩羽の言葉に岳はうなだれ、額に手を当てて目を閉じた。
「なんでそんな簡単に……」
岳は明らかにショックを受けていた。
「今まで誰にも気づかれなかったのに…こんなあっさりか?」
岳の手が彩羽の頬に触れた。
「いつから気づいてた?」
岳が訊く。
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