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「まあ、辞めるまでしばらく時間をおいていたわけだからその間、いろいろ考えたんだろう。だとしてもだ、相手は暴力団だぞ。お前自身が犯罪に手を染めずにいられるとは考えられない。いったい何をさせられた?」
江原にそう訊かれ、岳はにやりと笑みを浮かべた。
「まあ…少し自分自身が痛い思いをすることにはなりましたが、相手を信じさせることはできました。血液を見るのが怖いふりをしたり、先端恐怖症のふりをしたりして危険な事を回避してきたんですよ」
「そんなことしたら薬物の方に回されるだろ」
「薬のアレルギーをでっち上げました。使えば死に至る危険性がある…と。まあ…売買に加担するリスクは負いましたが、ほとんど関与していませんよ。5年も組織の中にいりゃ、頭を使うやつはそれなりの立場に置かされます。俺はそれを利用して今の地位についたんです」
「今の地位って?」
「…説明が難しいですけど、この辺一帯をまとめさせてもらってます」
そこに彩羽がお茶の入ったグラスをトレーに乗せてやってきた。岳がすかさず立ち上がり、彩羽の手からトレーを取る。
「さっきも喫茶店で大暴れしてましたよ、この人」と、彩羽は岳を見て言った。岳は苦笑いを浮かべている。
「喫茶店で大暴れ?」
江原には何のことだか分からない。
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