プロローグ

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プロローグ

 世界は暗く、混沌としていた。何もわからない。けれど、何もわからないことがわかる、ということはわかった。  そうして、そのことによって、それまでが完全な〝無〟だったことにも気がついた。そう、世界は無限の無。どこまでいっても黒く、どこまでいっても白い。その中にはすべてがあり、その中には何もない。  だが今、彼は世界を〝暗い〟と感じることができた。  意識がぼやけ、周囲がはっきりしない。彼は、体を動かそうとしてみた。彼の意識は、かつてそれができたことを覚えていた。しかしいくら欲しても、体は思うように動かなかった。  彼は、かつての体がないことを知った。  永い時間が流れた。彼はじっと、そこでそのまま、ただ在り続けた。  彼は考えた。なぜ、意識は目覚めたのか。  やがて彼は、かすかに闇が揺れるのを感じた。闇の向こうの端が揺らぎ、そこにかすかな、ぼやけた〝光〟が現われた。そこから、ざわざわとした〝音〟も聞こえた。  突然現われた光と音の刺激に、彼は驚き、戸惑った。しかし乱されはしなかった。そしてそれを〝懐かしい〟と感じ、そういう感情を思い出した。
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