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二人の姿が見えなくなっても、健はしばらくそこに立っていた。
どうしよう。追っていこうか。
辺りを包む夕闇は、あっという間にその密度を増している。白っぽく浮かんでいるように見えた田舎道も、黒い影の中に埋まろうとしていた。重く湿気を含んだ風がざわざわと草木を揺らし、髪をかき上げながら吹き過ぎていった。
「……もうすぐ夜だし、すぐに帰ってくるだろ」
自分に言い聞かせるようにそう言うと、健は再び足を家のほうに向けた。
家には誰もいなかった。まだ両親とも仕事から帰っていないのだろう。風呂場に行って追い炊きのスイッチを入れてから、キッチンに行って、冷蔵庫の中に総菜とサラダがあるのを確かめる。それから棚にあったクラッカーの箱から一枚取ってかじりながら、リビングに行ってテレビをつけた。
途端に、自分のたてる音以外に物音一つしなかった家の中に、騒々しい声が満ちる。しばらくの間、スマホをチェックしつつぼうっとテレビを見てから、お風呂に入った。出てきても、まだ康葉は帰っていなかった。
時計を見ると、もう二十時近かった。外はもう真っ暗だ。田舎のことで外灯の数もあまり多くない。夜になると、外では家々の窓から洩れる明かりだけが頼りになる。
階段を上って自分の部屋に入ると、「あーあ。疲れたー」とわざと声を出しながら、ベッドに横になった。
それからそばの漫画に手を伸ばした。仰向けになってページを繰っていたが、内容が頭に入ってこない。なんだか落ち着かなかった。
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