第一章 滝川健(たきがわけん)

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 ここⅠ県I市は、広大な関東平野の北の端にある。健に言わせれば、東北地方関東支部ということになるのだが。遠くには霞んだ山並みを望み、家や学校の周囲には、畑と田んぼが広がっている。  そしてその中に、ところどころ、お椀をひっくり返したような小さな里山がある。そういうところは滅多に人が足を踏み入れることもないので、木や草が伸び放題に生い繁っている。  そしてそういう小山の中には大抵、いつ誰が何のために作ったのかよくわからない道がある。そういう道は一歩足を踏み入れると、暗い。両側から差し伸べられた木々の枝が、空を隠してしまうのだ。  そのまま回れ右をして帰りたくなる気持ちを抑えて、やわらかい土の上を一歩一歩踏みしめて歩くと、どこからか、何の生き物かわからない、クアアッという鳴き声が聞こえてくる。一声それが聞こえると、もうダメだ。ギャー、グエッグエッ、ゲゲゲゲ。いろいろな鳴き声が一斉に聞こえてくる。暗い森の中に、一人佇む子供を包み込むかのように。そうなると、今までの我慢もどこへやら、ほとんどの子は一目散に逃げ出してしまう。
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