第47話

1/1
前へ
/66ページ
次へ

第47話

「そういえばあんこ、ざるだったんだよな」 「お酒はたぶん酔ったことない」 「相馬次長とやりあえるなら大酒豪だ」  大学の時も社会人になってからも会っていない晴が、なんで杏子がざるであることを知っているのか疑問だ。  ちなみに、晴と一緒に飲んだことは一度もない。 「私がお酒に強いって、誰から聞いたの?」 「……ちっ。教えない」 「はーるー!」  部屋に入って晴の背中をぼこぼこと叩きながら、杏子は問い詰める。 (やっぱり、うちの両親と繋がっているんだ、間違いない!) 「母さんから聞いてるんでしょ? ねえ、晴!」 「泣かされたいのか?」  いきなりくるりと振り返った晴が、ひょいと杏子を抱きかかえた。 「うわぁ、放してってば!」 「うるさい。決めた――泣かせる」  そのまま晴はバスルームへ杏子を担ぎ込むと、そこで降ろすと同時にシャワーをかけた。 「なにするの!」  熱いシャワーが頭上から降ってきて、杏子の身体を濡らしていく。晴が前髪を掻き上げた。晴の視線に杏子がドギマギしていると、にやりと彼の口元が笑った。 「言ったよな、泣かせるって」 「晴、もうやだ」 「俺は嫌じゃない」  逃がさないように抱きしめられて、シャワーよりも熱い舌に身体の芯が焦がされる。 「……あんこだけが好き」  見つめてくる視線は、独占欲なのか愛情なのか、それとも勝負に勝とうとしているのかわからない。 「俺だけでいっぱいになって、きょうちゃん」  再び重ねられた唇は先ほどよりも甘美な味がして、杏子の理性が溶けだしそうになる。しばらく二人で確かめ合っていると、晴がパッと離れた。 「あんこは早く風呂入って」  出て行こうとする晴の袖を杏子は掴んだ。 「晴、風邪ひくから」 「ごたごた言うなよ。あのな、黙ってとっとと風呂入れ」  晴は舌打ちしてバスルームから出て行った。 「晴も私もバカだなぁ。なんで勝負なんかしちゃったんだろ」  お互いに引くに引けなくなっているのは確かだ。  しばらく晴の出て行った後を見つめていたのだが、杏子は服を脱ぐとシャワーを浴びた。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2246人が本棚に入れています
本棚に追加