第48話

1/1
前へ
/66ページ
次へ

第48話

 気まずい週末を過ごし、月曜日に出勤するや否やかおりに肩をつつかれた。 「ちょっといいですか、大冨さん」  連れ出されていく杏子を見た美奈子が心配そうにしている。杏子は大丈夫、と手を振った。  休憩ブースに到着すると、かおりはにっこりと笑った。それがとっておきの営業スマイルだと杏子はすぐに見破った。 「晴……向井さんと仲がいいんですか?」 「普通ですよ」 「嘘言わないでください。仲良さそうでしたよ、この間」  晴がどういう言い訳をかおりにしているのか杏子は知らない。どのように彼女をかわしたらいいものか。 「私、向井さんとお付き合いしたいんです。もし彼に気があるなら、大冨さんは手を引いてもらえませんか?」 「噂は本当だったの?」  杏子はぎょっとしてかおりを見つめたが、不機嫌な顔でにらみ返された。 「本当です。大冨さんに勝ち目ないですよ」 「色気ないの知ってるけど、そこまではっきり言われると傷つく」 「とにかく、晴……向井さんはダメです。手を引いてください」  かおりはすがすがしく言い放った。杏子は考えた跡、冷静に口を開く。 「向井さんの気持ちもあるので、私を牽制したところで意味はないですよ」 「晴は、絶対に私に気があります。名前で呼んでくれるし、パーソナルスペースに入っても嫌がらない。この間も送ってくれる約束で、もう一歩だったのに……まあ、だから邪魔しないでもらえると嬉しいです」  晴の仕事や交友関係を邪魔をしているつもりはない。勝手にかおりが杏子を目障りに思っているだけだろう。 「邪魔はしません」  かおりは「じゃあ遠慮なく」とにっこり笑う。 「でも水谷さん!」  去って行くかおりの後姿に、杏子は声をかけた。 「最終的に誰を選ぶかは、相手にも決める権利があるはずです。それは、どんな立場でも誰でも等しく持っているものです」  それにかおりは頷いてから去っていった。  そろそろ、勝負の決着をつけないといけないだろう。期限もそうだが、かおりの存在もある。  杏子は携帯電話を取り出すと、要に連絡を入れた。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2243人が本棚に入れています
本棚に追加