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第48話
気まずい週末を過ごし、月曜日に出勤するや否やかおりに肩をつつかれた。
「ちょっといいですか、大冨さん」
連れ出されていく杏子を見た美奈子が心配そうにしている。杏子は大丈夫、と手を振った。
休憩ブースに到着すると、かおりはにっこりと笑った。それがとっておきの営業スマイルだと杏子はすぐに見破った。
「晴……向井さんと仲がいいんですか?」
「普通ですよ」
「嘘言わないでください。仲良さそうでしたよ、この間」
晴がどういう言い訳をかおりにしているのか杏子は知らない。どのように彼女をかわしたらいいものか。
「私、向井さんとお付き合いしたいんです。もし彼に気があるなら、大冨さんは手を引いてもらえませんか?」
「噂は本当だったの?」
杏子はぎょっとしてかおりを見つめたが、不機嫌な顔でにらみ返された。
「本当です。大冨さんに勝ち目ないですよ」
「色気ないの知ってるけど、そこまではっきり言われると傷つく」
「とにかく、晴……向井さんはダメです。手を引いてください」
かおりはすがすがしく言い放った。杏子は考えた跡、冷静に口を開く。
「向井さんの気持ちもあるので、私を牽制したところで意味はないですよ」
「晴は、絶対に私に気があります。名前で呼んでくれるし、パーソナルスペースに入っても嫌がらない。この間も送ってくれる約束で、もう一歩だったのに……まあ、だから邪魔しないでもらえると嬉しいです」
晴の仕事や交友関係を邪魔をしているつもりはない。勝手にかおりが杏子を目障りに思っているだけだろう。
「邪魔はしません」
かおりは「じゃあ遠慮なく」とにっこり笑う。
「でも水谷さん!」
去って行くかおりの後姿に、杏子は声をかけた。
「最終的に誰を選ぶかは、相手にも決める権利があるはずです。それは、どんな立場でも誰でも等しく持っているものです」
それにかおりは頷いてから去っていった。
そろそろ、勝負の決着をつけないといけないだろう。期限もそうだが、かおりの存在もある。
杏子は携帯電話を取り出すと、要に連絡を入れた。
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