第54話

1/1
前へ
/66ページ
次へ

第54話

* 「ほーら言ったじゃん、愛だねって」  事の顛末を美奈子に話すと、彼女は勝ち誇ったようにニヤニヤする。 「嫌いだったら、そもそも最初から同意なしに襲われてポイされるわよ」 「……ひどい」  杏子は愕然としてコーヒーをすすった。 「そもそも杏子の両親も絡んでいるんだから、無理矢理なんてできないしね。杏子に選ばれたい一心が強すぎたけど、それも含めて愛ってことで」  恐ろしい独占欲よねと言われ、それには杏子も同意した。 「よくもまあ、そんな狂暴で嫉妬深い番犬を育てたもんだわ。感心しちゃう」 「ははは……」 「良かったんじゃない。ほら、水谷さんももう入り込んでこないし」  杏子のことをライバル視していたかおりは、杏子と結婚するから無理と晴にあっさり振られた。  相当なダメージを受けたものの、プライドが邪魔したらしく、それ以上踏み込んでこなかった。 「女の魅力の神髄は中身なのよ。杏子がわんこくんの本性を知ってもなお、ずっと逃げないでいたから愛されたわけで」 「逃げようがなかったとも言えるんだけど……逃げなかったのは私の選択だったと思う」  美奈子は杏子の肩に手を回した。 「本当は小さい時からずっと、わんこくんのこと好きだったんじゃない?」  言われて、杏子は美奈子に完敗だな、と笑った。 「どっちが先に好きになったのかわからないけど……ずっとお互いに運命の人かもって思っていた気がする。晴が私の中にいない時なんてなかったから」  杏子は青空に向かって息を吐く。 「こじらせるほど重たい愛情になるとは思っていなかったけど」 「お互いにね」  晴が幸せならそれで良かった。そして自分も幸せを見つけようと努力した。それでも、ほかの人との幸せを見つけられず、お互いが一番大事だということで収まった。 「あなたたちらしいわ……結婚式は呼んでよね」  杏子は「まだ先だよ!」と驚いたが、美奈子がきっとすぐよと笑った。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2243人が本棚に入れています
本棚に追加