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そら、今日も来たぞ。入社1年目の庶務課の新人女子。伊武 麻里亜とか言ったな。ちょっと可愛くて胸が大きいので人気があるようだが、俺はそんなのには騙されない。こいつはかなりのアホなのだ。
「すみません、神さん、パスワード忘れたので教えて下さい」
そう。俺は本当に「神」なのだ。ただし読み方が違う。俺の名前は「神 航」。お世辞にもポピュラーとは言いがたいが、「神」は日本人の中に一定数存在する名字なのだ。
それはともかく。
「知るかっての。ったく、これで何度目だよ。てめえで何とか思い出せや」
「そんなこと言わないで……お願いですぅ……神様、仏様、神様ぁ……」
……そうやって両手を合わせて拝むと余計に胸の大きさが強調されるのを、彼女もわかってやってるんだろう。ったく、あざとい事しやがって。
そして彼女の最後の一言は、字面だけを見るとなんだか盛大に「馬から落ちて落馬」しているような気もしなくもないが、それはそれとして。
結論から言えば、彼女の「神頼み」を叶えることは不可能だ。なぜなら彼女のパスワードは俺にも分からないから。
意外に知られていないことだが、通常、パスワードはそのままの形でシステムの中に保存されてはいない。ハッシュという形式で保存されることが多いのだ。
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