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「あらおかえり、こういち...にしてはちょっと老けてない?こういち?だよね?」 「母ちゃん……」 死んだ母ちゃんがそこにいた。 僕の手が震えた 気づいたら泣いて抱きしめていた 「ちょっと、なによ」 母ちゃんは露骨に嫌そうな顔をしていたが気にしなかった。 顔を、声を聞いた瞬間、思い出が全部込み上げてきて、 ついでに涙も湧いてきた。 ずっとずっと聴けてなかったんだ。その声。 泣き疲れた後に、お前どうかしたのかと聞かれたが、 僕は数年後病気で死ぬからとは言えなかった。 元気な母を見たのは久しぶりだった。 1年も寝たきりな母を見ていた僕は、覚えていなかったようだ。 僕は嬉しかった。 「母ちゃん!俺、俺な!」 言いかけると、時計の声がした。 「あと30秒ですよ」 「えっ!」 そんな!急に言われても!泣きすぎてしまったか…… 母ちゃんは首を傾げていた。 「これ!!これ持ってきたから!」 僕は仏壇から取ってきた、 母が好きな、黄色い花を渡した。 「じゃあ、また後で!」 突然消えてしまっては、母ちゃんを怖がらせると思って僕は外へ急いだ。 けど僕の心が言った 寂しい。 部屋を出る前に僕は母の顔を見た。困惑した顔で黄色い花を持っていた。 胸が苦しい。 ……悲しいなあぁ ……またお別れかぁ でも人生は変えられないんだよな。 僕は作り笑顔で手を振って外へ出た。 と同時に仏壇の前へ戻った。 「いかがでしたか?本物だったでしょう?」 時計の人は胸を張りながら言った。 「ああ。ありがとうございました。」 僕は正座して頭を下げた。 深く深く。 顔を上げると時計の彼はいなかった。
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