1人が本棚に入れています
本棚に追加
1
夜中に僕は線香を持ち出した。
母ちゃんの仏壇ができてから5年になるだろうか。
だいぶ過去の出来事になってきてしまっているな。
煙がつーーっと上に上り、部屋に線香の香りが漂う
最初は夢に何回も出てきては、
泣き狂うほど悲しかったのに、今はそれほどでもない。
僕はあんまり記憶力がないから、毎年毎年母ちゃんの記憶がなくなっていく。
それが悲しかったし、何より母ちゃんに申し訳なかった。
僕は、母ちゃんが好きだった黄色い花を花瓶にさして、また手を合わせた。
俺もまた、いつかあなたの元へ行くんだろう。
けれど、僕はあなたの怒鳴り声くらいしか覚えていないよ。
笑ってしまうね。
酷い声だった。それだけは覚えてる。
ビデオくらい持ってたら、どんな話し方だったかくらい、思い出せたのに。
僕らガキは、兄弟しか撮ってなかったな。
ため息をついて立ち上がると、いつの間にか僕の横に人がたっていた。
「うわああぁぁぁ!!!」
最初のコメントを投稿しよう!