50人が本棚に入れています
本棚に追加
「今年の新人の中で、私は榎本が一番看護師に向いてるって思ってた」
思いもよらない言葉が聞こえて、思わず涙が止まった。いや先輩、それは見る目がなさすぎだ。私の看護師を目指した理由の不純さを聞かせてやろうかと一瞬思ったけれど、流石にやめておいた。
「あんたの知識も技術も患者さんとの距離の取り方もまだまだだけど、榎本のこの仕事との向き合い方には心がある気がしてたんだ」
心が、ある?
”確実な技術と、患者さんの表情や些細な変化から気づく目を持ち、心のある看護で患者さんの笑顔と命を護る”
不意に自分が面接のために用意したもっともらしい理由が頭をよぎる。まさか、そんな。カモフラージュで作った理由だったはずなのに。私は無意識のうちに、その理由に沿った看護をしようとしていたというのか。
「私は榎本と違って感情で動くのが苦手でとっつきにくい部分もあるかもしれないけどさ。プリセプターとしてできる限りのサポートはしたいといつも思ってる」
先輩がちょっと恥ずかしそうに笑った。物凄く遠い、手の届かない位置にいる存在でしかないと思っていた篠崎先輩が、なんだかお姉ちゃんみたいに感じて。私の傍に自ら降りてきてくれた先輩のことが、私はとても好きになった。
不意に時計が目に入ると、私の休憩時間は残り10分になっていた。仕事に戻らなければ。何も食べていないけれど、今は心が十分元気だから、頑張れる。いや、頑張りたい。
お礼を言って立ち去ろうと息を吸った瞬間、先輩が先に声を発した。
「榎本、あと20分休憩延長。30分あれば何か買いに行っても食べられるでしょ?」
「いや、でも。それに先輩だって」
最初のコメントを投稿しよう!