ひよこ

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 配属初日。真新しいナース服に身を包んだ私の心臓はいつにも増して元気よく血液を全身に送り出していた。つまりそれは、ドキドキしているとも言う。  だって他人の血管を縛るという行為、更には血管に刺し、異物を入れ、血を抜くという行為等、これまでとは違う血管へのアプローチが許される資格を得たのだ。興奮しない方が難しい。 「みんな緊張してるね、可愛い」  微笑ましいなという顔で先輩達が新人を眺めていた。多分私だけはドキドキの種類が違っていたけれど、それをあえて口に出すのは社会で上手くやっていくために得策ではないと思って唇を結んだ。  しかし、私の期待はすぐに裏切られる。  私と患者さんの血管が出会う日は、なかなかやってこなかったのだ。  どうやら新人は医療行為の前にいろんな段階を踏まなければならないらしい。数々のオリエンテーション、研修。物品の位置や使い方を覚えて、一日中先輩の背中に張り付いて流れやケア方法、コミュニケーション術を学んで。もちろんそれも大事なことだとはわかっていたけれど、正直もやもやもした。  だってこれでは学生の時と全然変わらない。  初めのうちはただただしんどくて、心身共にかなり応えた。だけど徐々に患者さんに侵襲を与えるケア以外は任せてもらえるようになると、やっと充実感や楽しさも感じられるようになった。  そしてゴールデンウィークも終わった頃だっただろうか。なんと初めて私に受け持ちの患者さんというものがついた。もちろんサブとして先輩もつくけれど、ベッドネームの下に私の名前があるのを見るのはなんだかとても照れくさく、特別に背筋が伸びた。
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