ひよこ

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「すごく尊敬する先輩ではありますけどね」 「そうね。すごく信頼できる看護師さんだなって私も思ってるよ」  磯部さんがとても柔らかく目を細めた。なんだか胸の奥がジンとして、私もそんな風に言ってもらえる看護師になりたいという気持ちと、果たして本当にそうなれるんだろうかという不安が混ざり合った。 「磯部さーん、失礼します。今日の夜勤担当の篠崎(しのざき)です。って榎本(えのもと)! またいる!」  突然カーテンが開いて顔を出したのは私のプリセプターだった。もしかしてさっきの先輩が怖いというところが聞かれていなかったかとひやひやして顔が強張る。いや言ったのは私ではなく磯部さんなんだけど。 「磯部さん、いつもすみません。榎本が度々顔だすのがしんどかったらこっそり私に教えてくださいね。適当な理由つけて担当時以外出入り禁止令出すので」 「あの先輩、全部聞こえてますけど」  私が声をかけたってお構いなしという風に華麗なるスルーをかます先輩は、流れるような動作で体温計を渡す。 「大丈夫ですよ、フレッシュなひよこちゃんにはいつも元気貰ってます。良い受け持ち看護師さんですよ。もちろんあなたもね」 「ありがとうございます」  体温計が電子音を鳴らしたのと同時に先輩が私にもう出ろと促したので、私は磯部さんに頭を下げて病室を出た。  翌日怒られたらどうしようかと思ってドキドキ出勤したけれど、特にお叱りの言葉はなかった。先輩が夜勤で疲れていただけかもしれないけれど。
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