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わたしはどこにいても、どんな人からも、嫌われていた。
そういう役目がこの世界には必要で、わたしはその役目に一番適していたのだろう。人気を得たかったわけでも、認めてもらいたいわけでもなかったはずなのに、わたしは孤独だった。多くを望んだつもりはないのに、ひとつも残らなかった。
町で唯一の火葬場から逃げ出すように出ると、灰色の煙突から黒い煙がもくもくと出ていた。声が聞こえて反射的に視線を煙から剝がすと、クラスメイト数人の女子と目が合った。
くすくすと、視線が飛び交う。恥ずかしくなって火葬場の奥へと引っ込んだ。
わたしもまた、学校で歩くフケと呼ばれていた。冬物のセーラー服は紺だったから、その襟元に白い粉がついていたのだと、あとになって知った。不潔で気持ち悪い子。祖父と同じあだ名をつけられるわたしの人生とは、とても数奇で、それでいてあまりにも滑稽だった。
苦しくなると、自分が死んだあとの世界を想像する。
あのクラスメイトたちは、あの親戚たちは、あの父は、どんな顔をするのだろう。遺書でも残していったら、どんな感情を抱かせるのだろう。
泣いてくれたらいい。後悔してくれたらいい。自分が悪かったと思ってくれたらいい。でも、それでわたしの心は晴れるのだろうか。そんなことで、晴れてしまうような人生だったのか。とても陳腐で、おもちゃみたいな生き様で、苦しくなっている自分に酔っているような気がした。悲劇のヒロインか。
煙はいつの間にか煙突と同じ色をしていた。わたしも空の一部になりたいと思った。そうしたら、苦しさからは解放されるのような気がする。おもちゃみたいな生き様でも、やっぱりしんどいものはしんどい。人から疎まれるというのは慣れようとしても慣れない。なんでだろう、愛されたことなんて一度もなかったのに。
骨になった祖父を見て、涙が流れるどころか、滲むことすらなかった。
悲しいなどという感情がまるで欠落しているかのように、その骨を、祖父ではなく、骨として見ていた。啜り泣く音だけを音として捉えながら、非情ね、とだれかが言ったのが聞こえた。
〝──色紙にはなんて書いたの?〟
単純なリズムで並べられたその文字が、白い背景に並んだ。ブルーライトが目を刺激する。
〝なにも。書くこと、なにもなかった〟
混沌とした夕闇に紛れても、スマホのライトを隠しきることはできない。真っ黒に化した川を、欄干橋から眺めていた。
祖父の火葬も終わり、家に帰ることもなくふらふらと町を歩き回った。
小さくて、狭い、悪い意味で人との距離が近い町。祖父が死んだという話も、今頃町全体に行きわたっているに違いない。あのクラスメイトたちが広めているのかと思ったら、どうしようもない怒りが沸き上がった。人の死を、娯楽として楽しむような人たちだ。わたしが非情なら、あの子たちはもっと責められるべきなんじゃないのか。
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