ただひたすらに願うのは

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 ――神さま、お願いします。    怪我や病気もなく、健やかに暮らせますように。    辛い思いをしていたら、少しでも楽になれますように。    おいしいものや好きなものを不足なく食べられますように。    人でも物でも事柄でもいい。素敵な出会いがありますように。    雨に降られているのなら、雨宿りできる場所をお与えください。    寒さに凍えて、震えているのなら、暖かな日差しをお与えください。    暑さにのぼせているのなら、喉を潤す水と涼しい風をお与えください。    悩みや迷いに頭を抱えているのなら、良い道に進めるよう、お導きください。    挫けそうになっていたら、貴方を大切に想う人が確かにいることを思い出させてあげてください。    幸せを少しでも多く感じられますように。  そのお願いごとの先に必ず存在するひとは、いつだって私のまかり知らない場所にいる。  大切なひと。  私に多くのことを教えてくれたひと。  想いを伝える前に、突然いなくなったひと。  行方も知れず、存在した証さえ消えようとしているひと。  もしかしたら、もう二度と逢うことの適わないかもしれないひと。  ――神なんて、あてにするものではありません。  そう言ったあのひとは、私が沢山のお願いごとを神さまにしていると知れば、どう思うだろう?  ――自分のことは自分でどうにかします。自らの手に負えないことに直面しようとも、神には絶対に頼りません。 と、断言したひとだもの。  ――何をしているのですか、あなたは。    そんなに私は頼りないですか?  呆れた声で、余計な世話だと言わんばかりに憤り、嘆くのが容易に想像できる。  違う。違うのだ。  あのひとは頼りなくなんてない。  寧ろ、どんな困難にも向き合う強い人だ。  そんなあのひとの力に、たとえささやかなものだとしても、私はなりたい。  けれど、私がこの願いを自力で叶えたくても、あのひとには会えないし、何処にいるのかもわからない。  だから、こうして神さまにお願いごとをする。  今の私には、神さまに頼るしか(すべ)がないから。  あのひとの無事と平和と幸せを祈ることだけしか、力になれない。  ……でも、私にあのひとのことを神さまにお願いする資格はあるのかな?  こうして願うことが、あのひとの迷惑にならないかな?  大丈夫かな?  願い続けても、いいのかな?  ――神さま。  自分ではどうしようもないこと、どうしても叶えたくて仕方がないことがある時、心の中で、そっとお願いする。  あのひとにではなく、自分の為にするお願いごとは、いつだってこればかり。  ――神さま、お願いです。    もう一度、あのひとに逢わせてください。  お前は欲張りな人間だな、と神さまはさぞや私に愛想を尽かされることだろう。  それでも、願わずにはいられないのです。
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