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第一章 親指姫の憂鬱 ②
それは春も夏に移ろうとしているうららかな夜の事でした
濃い芝生に赤いゼラニウムやインパチェンス。
様々な種類の香気を放って麗しい薔薇たちの庭はすっかり静まり返っていました。
星たちだけがチラチラ光っています。
ガマガエルは得意の絶頂でした。
とうとうここまで来たぞ。
主人がかけ忘れた裏口の窓から闖入して、
等々姫のガラスの球に張り付き天井までのぼりました。
親指姫もまだ子供でしたから一端寝てしまうとなかなか目を覚ましませんでした。
それをいいことに、天井の空気を通す穴から
自分のデロンとした長い舌を垂らし先をすぼめて、
チロチロと姫の首筋や耳元を、そっと舐めてみました。
はう……
親指姫は寝返りをうちました。
うーん。
はあ……
ため息とも吐息ともつなかい甘い声が赤い小さな唇から漏れる度に
ガマのカエルは悦び勇みました。
もっと、なんとかならないか?
そーっと薄い絹の掛布団を舌先で引きました。
薄物の白いナイトウエアはほっそりとした姫の肢体を透かしていました。
ほんのもうしわけ程度の胸の膨らみまで。
ガマの親父は脂汗を滴らせ、
はあはあ息が荒くなるのを止めらられずに、深い襟ぐりで露になった大理石の様に輝くデコルテにまで舌先を這わせました。
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