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第二章 白雪姫の妬心 ②
どうしても白雪姫の心は晴れませんでした。
何故、あんな小娘がこんなに気になるの?
何故?
あの子のあどけない顔を思いきり爪で引っ掻いてやりたい!
得意げな金髪に栗のイガイガを沢山擦り付けてみたらどうかしら?
お父様とお母さまに「おはよう」とか「ありがとう」とか話しかけるあの甘ったるい声を聞く度にイライラしました。
実の娘がやって来たのに。
最初の一日目にディナーのテーブルを囲んだだけで後は知らん顔です。
実のところ王も后も困っていたのです。
御妃も自分の夫が娘に手を付けた罪を知っていました。
王も何もかも知られてしまった妻の手前これ以上白雪姫には関わりたくないのでした。
「あんなに夜は歓んで泣いている癖に昼間はすっかり子供に帰っている。信じられない神経ね」
マリー・アンヌは哀しそうに「親指姫も苦しんでるんじゃないでしょうか」
ふと振り向いた白雪姫は、かつて自分の身に起こった悲劇をまざまざと思い出しました。
あれは夜も深まった闇夜の中の出来事でした。
蚊帳の中のベッドでぐっすり眠っていたところ、何か重たいものが羽根布団の上に覆いかぶさって来たのです。
ううう……うう。お、重い……お、重い、マリー、マリー…ううう!!!
まだ八歳の年でした。
唇を吸う唇を感じました。
息を止められて殺されるんだと思った姫は恐怖でもがきました。
でも大きな手が姫の口も顔も押さえつけました。
そのまま、もう片方の手は段々降りて来て身体じゅうをまさぐり出しました。
うううう!!
あっというまに純潔を散らされ
衝撃の傷みに身を反らしました。
直ぐに体の上の黒く重たい影は去りました。
でも、破瓜の傷みと純白のシーツの上に残った血痕は次の朝には侍女達から従僕へ、下働きの料理女へ街へお使いに走らされる汚い乞食へ、庭師へ、厩舎の舎人へとどんどん尾ひれをつけて広まりました。
ーーー白雪姫には王子様は望めないね
ーーー可哀相に
ーーーあら。自分から誘ったって聞いたわよ。
まあ!それほんとう?!
ここまでの酷評を浴びていると知らないのは姫本人でした。
でも自分の大事なものが失われた重大事件に慄きました。
侍女のマリー・アンヌと彼女の母、イボンヌ婆だけが味方でした。
占いや呪いを出来るイボンヌは、事件のあったその晩のシーツについていた臭い液体をわざわざハンカチにとって置いたのを出してきました。
「姫様。これと同じ匂いを知っております」
「なんで、そんなことまでおまえは知っているといえるの?」
「なにせ。イボンヌ婆ですから。これは殿様のでございます」
「え?どういうこと?」
そこは、下の下の階の乾燥した薬草や妙な生き物の瓶が並ぶ不気味な部屋でした。
頭からフードを被った幼い姫に
「あなた様は父王に殿様に犯されて乙女を奪われました」
くらりと椅子からずり落ちて気絶した姫を抱き取ったのはマリー・アンヌでした。
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