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 空気が冷え冷えとし冷たく輝き出す頃になり受験シーズンが始った。いよいよ明日は遊児の受験本番だ。遊児は塾での勉強に加え、私ともずっと勉強をしてきたし、面接でも何を質問されてもいいように模擬面接を繰り返してきた。試験前日になって最後の模擬面接を終わらせたところで私は遊児に御守を渡した。 「これは……」 「学問の加護で有名な神社の御守だよ。休みの日に飛行機使って行ってきたんだぞ」 私は学業成就の御守を遊児に渡した。私立組のメンバー全員には渡してあるのだが、遊児のものだけは「特別製」だ。 「先生! ありがとう!」 遊児は私に抱きついてきた。その瞬間、胸が熱くなった。これが師弟愛とでも言うのだろうか。血の繋がりのない関係でありながら、遊児が息子かなにかのような存在に思えてならなかった。 「ポケットか鞄にでも入れておいてくれ。そうだな、願を込めると思って受験票の上にでも乗せて欲しいな。みんな、いいね? 筆記用具なら忘れても学校の方で貸してくれるだろう。受験票だけは絶対に忘れてはいけないぞ!」 そして、受験当日…… 起床した私はいつものように部屋の姿見の前で笑顔の練習をした。もうすぐ練習せずともに「本物」の笑顔が浮かべられると思うと気分が高揚してくる。 私は教室に行き、ホームルームの号令をかけた。席にはいくつか空席がある、私立組が受験に行っているからである。 「はい、ホームルーム始めるぞー」 それを言う私はいつも以上に爽やかな笑顔を生徒たちに向けた。子供と言うのはこういったことに敏感なのかすぐに指摘に入る。 「せんせー、ニヤニヤしてるね。機嫌いいのー?」 「ええ、今日はいい日ですから」 「あーっ! 先生の贔屓が始まった! お受験組にベッタリだったもんなーっ! 差別すんなよー」 贔屓…… か…… 確かに非受験の公立組には普段通りにしか接していなかったな。でも、私としては贔屓をしているつもりは一切ない。ただ「受験」をするからそれに合わせた授業と指導をしていたまでの話だ。区別はしていたが差別は一切していない。
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