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 数時間後…… 二時間目が終わったところで私は教室を後にし、誰にも話を聞かれないように屋上前の踊り場へ行きスマートフォンを手に取った。電話をかけた先は今遊児達が受験中の私立中学である。 〈はい、お電話ありがとうございます。私立○○大付属○○中学校です〉 「……」 私は一旦沈黙し、間を取った。緊張している(てい)を見せるためだ。これだけで何か「言いづらい」ことを言おうとしている感じに取ってもらえればありがたい。 〈もしもし? もしもし?〉 よし、ここからだ。私は一瞬、軽くすぅと深呼吸をし口を開いた。 「私、△△小学校の教諭を担当させて頂いている者でして……」 「いつもお世話になっております、それでどのようなご用件でしょうか」 「老婆心…… いえ、良心から連絡差し上げたのですが…… △△小学校から御校を受験させて頂いている生徒の件で報告したいことがありまして、お電話させて頂いた次第です」 「……はい、お伺いします」 よし、第一関門突破だ。ここで門前払いを心配していたのだが、杞憂だったようだ。 「実はですね。先程言いましたウチの生徒がカンニングをしている可能性があると、少し小耳に挟みまして……」 〈カンニング…… ですか? 問題集などは入場前に来客用のロッカーに入れて頂き不正行為の芽を潰し、筆箱等も机の上には乗せずに、筆記具…… 鉛筆、鉛筆削り、シャープペンシル、シャープペンシルの芯、消しゴム以外は机の上に乗せないように細かく試験要項に……〉 マニュアル通りにやっていますと言うのはアホの言うことだ。アニメの台詞だが、現実にも通用する台詞だ。私は「抜け道」があることを教えてやった。 「あのですね、受験生は御守を持ってきているでしょう? 中の内府(ないふ)を抜いてカンニングペーパーを投入すればバレないと生徒が言っているのを聞きまして」 〈御守、ですか〉 「試験官の目が離れたところで、鞄なりポケットから御守を出して中のカンニングペーパーを見ると言った寸法です。私は確かに勉強は教えてきました…… ですが…… ですが……」 私は嗚咽混じりの口調に切り替えた。ここからは一世一代の大芝居。 「私は人間性を教えることが出来なかった…… 私はあの子達の御校への熱意と希望に心打たれ、影響されたのか御校への合格をあの子達に言い続けてきた、その期待に応えるために不正を厭わないとは…… 私の監督不行届の致すところです……」 〈お、落ち着いて下さい〉 もう一押しだ。ここで一気に畳み掛ける。
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