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第一部 乙女篤子/#01-01.そんな馬鹿な
「実はおれ、彼女出来たんだ」
突然の夫の告白に、眼前が白く染まる。――人間、本当に驚くと本当に声も出せないんだなと、このときのわたしは悟った。夫のお気に入りの高級ソファーに腹を下にして寝そべり、マッサージを受けていたはずのわたしは、夫を振り仰ぐと目で退くよう促し、ソファーから飛び降りる。
「色々とおかしいんだけど、……先ず」わたしは夫をきつく見据え、「彼女ってなに。誰。てか久々にマッサージするのとか、それカミングアウトするための餌……だったわけ? 信っじらんない!」
立ったままの夫は、「質問は一度にひとつにしてくれないか?」
はあ、とわたしはため息を吐いた。元々クレイジーなところのあるひとだと思ってはいたが、ここまでとは……。めでたく結婚生活が十年を超えた頃に、このカミングアウトですか。はいはい。ひとまずわたしはソファーに座り、……てかこのソファー本当座り心地いいな。革張りで給与三か月分を叩いただけのことはある。
「不倫がご法度とされるこのご時世において、不倫をしようと思った経緯について……お聞かせ願えれば」
すると夫は顔を歪め、
「原因はおまえが一番よく分かっているだろう」
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