#03-02.輝かしい未来

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 マンションは売却し、別々に暮らすことになった。当然ながら円を引き取るのはわたしだ。学校など住環境を変えたくないゆえ、駅近くでよく見かけた、ぼろぼろのアパートに引っ越すこととなった。1LDKだが、部屋は円の高級ベッドと机で占められており、わたしはこたつテーブルにパソコンを置き、食事のときだけどかしている。なかなかに不便だ。とはいえ――失ってみると自分はなにをこだわっていたのかと思える。毒が抜けたみたいに、貧乏な生活はすがすがしい。セレブちっくな美容室へは通い続ける、だがシャンプーは市販の安価なものを使う。スキンケアも美容液だけ高いのを使い、以外はリーズナブルなものにした。見たところ円も、順応している。――子どもは、馬鹿ではないのだ。ママが無理していたのを分かっている。  さて。いつも通り仕事を終えると帰宅する。円は、ひとりでお留守番をするようになった。ママママだった我が子が……こうして子どもは手を離れて行くのだな、と思う。感慨深いものがある。ひとりで――生きていくのだ。お互いに。
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