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番号札を受け取り、円とカウンター席に並んで座る。ここは――荒木と出会った思い出の場所。彼との思い出が詰まっている。
「――お待たせ……。あっちゃん」
見れば、真っ赤な薔薇の花束を手にした荒木が、すぐそこに立っていた。
荒木は、みるみる表情を崩すわたしにかけて微笑みかける。「二年もかけちゃって。ごめんね。一応小説家としてやっていけることになったから……迎えに来たよ」
――もう、わたしは、ただの女と化した。荒木の胸に抱きつき――思い切り泣いた。この姿をいったいどんな気持ちで美冬は見つめているだろう……と思うと胸のすくような思いがした。それよりいまは荒木だ。彼以外――なにも見えない。
「それから……プレゼントがもうひとつあるんだ」荒木はポケットから小箱を取り出し……それは、明らかに、指輪が入っていると思われるケースだ。「受け取って欲しい」
荒木は、小箱を開いた。そこには――純然たる未来が、輝いていた。
「田原篤子さん。ぼくと……結婚してください」
人目をはばからず号泣した。そんなママを心配して、円が駆け寄ってくる。ママ、大丈夫? と……。
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