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――おお。刺さるね。確かに。娘の円が生まれて一年後に、わたしたちは『レス』になった。というか、最後に夫に誘われてそんで、いやいややってやって、それで終わり。以降、わたしは夫に背を向け続け、触るなオーラをぷんぷんに漂わせるようになった。うちにはテレビが二台あって、わたしはわたし用のテレビを見、背中合わせで夫が夫のテレビを見る。食事はダイニングで一緒にとるが。会話をするのはそのときくらい。仮面夫婦とまで言うと大げさだが、ひとまず、わたしたちは、子どもを通じてしか会話の成り立たない夫婦へと一歩前進した。
「つまり、……性欲処理の相手が欲しい。だから、彼女を作った、と……」
「いや。それだけじゃない。精神的な拠り所なんだ、彼女は……」夫は、自身が熱心に手入れをするソファーに座ろうとはしない。まるでなにかを乞うているかのようだ。「家庭内で解消出来ない鬱憤を、彼女が出来ることで晴らせるのなら、お互いそのほうが、精神衛生上いいだろう?」
――いや。浮気を告白されるほうがよっぽど精神的に毒ですけど?
と言わず、わたしは質問を選ぶ。「……相手の子、いくつ?」
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