第一部 乙女篤子/#01-01.そんな馬鹿な

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 わたしは布団を抜け出て、冷たい廊下をはだしで歩き、夫の寝室へと向かった。娘が幼い頃からママと眠っており、ひとりでは眠れないので、ベッドのある娘の寝室に、シングルの布団を敷いてわたしは寝ている。一方、夫は空き部屋だった奥の部屋に夫婦用だったクイーンサイズのベッドを持ち込み、自分の部屋にしている。  ドアをノックすると返事があった。「……入るよ」 「どうぞ」  ベッドで身を起こした体勢の夫。こんな非常事態にも関わらず、彼は例のごとくラノベを読んでいた。――おいおい。妻を不幸のどん底に叩き落しておいて、読むのがラノベかよ――とわたしは絶叫したくなった。けども、わたしは笑顔を作り、 「……彼女が出来たことで、自分にゆとりが生まれるのよね……」わたしはここ最近の夫の変化を思い返していた。そういえば、前よりも円に話しかける回数が増えたように思う。「あくまで。あくまで……円を一番に思ってくれるのだったら……だったら」  わたしは夫を見据えて告げた。 「彼女でもなんでも、好きにするがいいわ」  *
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