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「あなたの願いごとを、ひとつだけ叶えてあげましょう」
「誰?」
「私が誰なのかは気になさらないでください。ただ、あなたに感謝の気持ちを抱く者が、あなたの願いを叶えたがっている。さぁ、願いごとをおっしゃってください」
「感謝の気持ち?」
「詮索は無用です。私のことを信じ、願いごとを伝えてください。その願いはきっと叶えられることでしょう」
「では、願いをひとつだけ」
「どうぞ」
「わたしの恋を叶えて欲しいのです」
「好きな人がいるのですね」
「はい」
「もちろん。あなたが望むのなら」
「では、わたしの恋を叶えてくださいませ。同じクラスの遠山くんに恋するわたしの想いを」
酷く打ちひしがれた青年が、再び神様のもとを訪れて言った。
「彼女の願いを叶えるのは、やめにしました。ロクでもない願いだったからです」
神様は彼に同情した。
唯一の味方だと思っていた彼女が、まさかイジメの主犯格に恋心を抱いていたなんて。
青年は神様に詰め寄り叫んだ。
「遠山を殺めてください。僕を自殺に追いやったヤツを、今すぐ殺めてください。あんな下等動物は生きていても意味がない。今すぐ世界から抹殺すべきです。この願いはクラスみんなの願い。皆が皆、彼には消えて欲しいと願っているんです」
「彼女もそう願っているのですか?」
「えっ?」
「少なくとも、彼女は彼が消えることを望まないはず。あなたの願いを叶えてしまうことは、彼女の願いを葬り去ってしまうことになる。それでもいいのですか?」
青年は彼女の笑顔を思い返し、涙した。彼女の存在だけが生きる理由だった。そんな彼女の願いを奪い去ってもいいものか。
自分はもう死んでいる。生きる人たちの邪魔をする資格などない。そう思うと、込み上げてくる嗚咽は、ますます大きくなった。
「わかりました」神様は、青年を慰めるように言った。
「あなたの願いを叶えてあげることはできません。ただ、あなたが自ら願いを叶えられるよう、時間を戻して差し上げましょう。あなたは元の世界に戻り、その手であなたの願いを叶えなさい。たとえそれが、憎き存在を殺める行為であったとしても、目をつむりましょう」
気づくと青年は自分の部屋にひとり。ロープを手に立っていた。天井に設置したフックに目をやると、自殺に踏み切った瞬間の記憶が蘇った。どうやら本当に時間が戻ったらしい。
青年は「よし」と呟き、ロープをベッドの上に放り投げた。
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