第二章 回想

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 私はふと過去のことを思い出していた。  彼のぺったり前髪……過去に同じものを見た記憶がある。今年で32歳になる私の兄だ。    兄は私の地元の総合商社に勤めており、かなり忙しい毎日を送っている。現在は結婚して今は2児のパパでもある。  彼はいわゆる「M字ハゲ」で、20代後半から一気に来てしまった。本人もかなり気にしているようなので、私も含め、家族はなるべく髪の話は避けている。  私の父も立派なハゲなので、遺伝であることは間違いない。加えて仕事のストレスも要因のひとつだと思われる。  そんな兄のハゲ始めの頃と尊のぺったり前髪がよく似ているのだ。  兄はその後額の両側が某サイヤ人王子のように後退していき、頭皮も透けて見えるようになっていった。しかもけっこうなスピードで、だ。  尊と付き合い初めて、兄と髪質が似ているなと思っていたが、彼も兄と同じで若ハゲになる体質なのかもしれない。  だが、薄毛だろうがハゲだろうが別にそんなことは気にならない。彼は見た目だけでなく中身もイケメンだからだ。 世の女性達がハゲに対してどれだけ抵抗があるか知らないが、髪の毛の量と人の価値は全く関係が無い。    けど……しきりに前髪を気にする彼の姿を見て、この気持ちを伝えることは出来ない。  言い換えれば「あなたはハゲです」と言ってるのと同じだもんな……  それに言葉にしなくても彼は私の気持ちを分かってくれるだろう。  と、私が大きなエビチリをほおばった時、尊がじっと見つめてきた。  
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