第一章 気付き

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 それから20分ほど経った頃、私の部屋のチャイムが鳴った。 「はーい」  私がドアを開けると尊が申し訳なさそうな顔で立っており、遅れたことを謝罪してきた。イケメンなのに謙虚なところも彼の魅力である。  ただ……何かがいつもと違う。 グ~  と、また私のお腹の虫が騒ぎ出した。 「本当にすまん。せっかくの誕生日なのに腹ペコにさせちまって。今日は美味い中華料理をご馳走するよ」  この空腹は私のドジが原因なのに、尊に余計な気を使わせてしまったらしい。だが、おいしい中華料理は素直に嬉しかった。私のことを大切にしてくれているんだな。 「じゃあ行こうぜ」  尊がスマートに私の隣に並んで歩き出した。  ――その瞬間、私は無意識に彼の前髪に目が行ってしまった。  違和感の正体はこれだったのか。いつもはふわっとしている彼の前髪が、ぺったりとおでこに張り付いている。そのせいでサイドだけボリュームがある感じに見えてしまう。  あまり見ると悪いと思い、私はすぐに目線を戻した。だが、私の目の動きに気付いたのか、彼は急に黙り込んでしまった。 「どうしたの?」  と、私はさりげなく尋ねた。いつもビシッとキマっている彼にとって、あまり触れられたくないのかもしれない。ここは軽く流すべきだ。 「あ、いや、何でもないよ」  尊が爽やかな笑顔で答えた。そしていつものように軽快なトークを再開させた。  私の考えすぎか……別にめちゃくちゃ変というわけでもないし、そこまで気にする必要はないだろう。    だが、彼は思った以上にぺったり前髪を気にしていた。  目的地へ向かう途中、彼は頻繁にルームミラーで前髪をチェックしていた。そして、その度に眉間にしわを寄せて納得いかないという表情をしていた。 「別に変じゃないよその前髪」  と言ってあげたかったが、逆効果になってはまずいと思い、あえて触れなかった。    尊がこんなに髪型を気にするとは意外だった。イケメンだがナルシストではない彼がこんなにも前髪を気にする理由は何なんだろう。  そう言えば……  ***
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