第二章 回想

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 俺はふと過去のことを思い出していた。  このぺったり前髪……過去に同じものを見た記憶がある。今年で33歳になる俺の兄だ。  6歳上の兄も俺と似たような髪質で、梅雨時などはうねうねとした前髪に苦労していた。  だが、いつの頃からか、湿気とは明らかに違う原因で前髪がぺったりとしていた。恐らく彼が30歳手前位だったと記憶しているが……  原因は男性型脱毛症……いわゆる「若ハゲ」だった。  ここ最近は「AGA(Androgenetic Alopecia)」という病名で世間に浸透しつつある、特に若年層を悩ませる病気だ。早い奴だと高校生の頃から発症する者もいるらしい。  50代や60代の渋みが出ている男性ならハゲてもどうってことないが、俺のような20代で若ハゲっていのはけっこうキツい。  兄貴の前髪がぺったりし始めてから約3年ほど経つが、今では更に薄毛が進行して額の両端がかなり後退していた。それに加え頭皮も透けて見えるようになってきており、かなり寂しい感じになっている。  加えて俺の親父や祖父もハゲており、祖父の家に飾ってあるご先祖の写真もハゲていた。  このように我がファミリーは代々ハゲの家系だったのだ。だが、俺だけは大丈夫という根拠のない自信を持っていた。  しかし、現実は甘くない。とうとう俺にも始まったというのか……
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