14人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は最近購入したミニバンに乗り込むと、未央奈のアパートへと車を発進させた。この車も未央奈との将来を見据えて購入したものだ。これなら家族が増えても問題なく対応できる。
今日はそれとなく結婚の意思があるか確認しようかと考えていた。
ただ、時折ルームミラーに映るこのぺったり前髪が気になる。せっかくの彼女の誕生日なのに、完璧な状態で祝いたかった。
と、前髪を気にしているうちに未央奈のアパートに到着していた。
ピンポーン
押し慣れた未央奈の部屋の呼び鈴を鳴らす。
「はーい」
と、中からふわっとした声が聞こえた。俺の前髪は相変わらずふわっとしてないが。
ドアがゆっくりと開き、中から未央奈が出てきた。
「おはよう、尊くん」
未央奈が笑顔で出迎えてくれた。薄手のニットセーターにミモレ丈スカートという清楚感のあるコーディネートだ。彼女によく似合っている。
「おはよう、つってももう昼だけどな。遅れてすまん」
俺が謝罪すると、
「大丈夫、おかげでたまってた洗濯物が片付いたから」
と天使のような微笑みを見せた。
「そう言ってもらえると助かるよ。腹減ってるよな?」
「ううん、全然平気……」
グ~
と、未央奈の腹の虫が騒いだ。
「ごめん、本当はペコペコですねん」
未央奈が照れ臭そうに頭をかいた。彼女の部屋からいつもの良い香りでなく焦げ臭いにおいがする。もしかして我慢出来ずに何か作ってたのかもしれない。
「だよな、本当にすまん。せっかくの誕生日なのに腹ペコにさせちまって。今日は美味い中華料理をご馳走するよ」
「えー本当に? すごく嬉しい!」
未央奈が嬉しそうに飛び跳ねた。
「ああ、もちろんさ。じゃあ行こうぜ」
俺は笑顔で言うと、今日のデートプランを話しつつ未央奈の歩幅に合わせて歩き出した。
――その時、並んで歩く未央奈が一瞬真顔で俺の前髪を見た。
普段話をする時は目を見て話す彼女が、俺の目より上に目線をやった。すぐに視線を戻したが、間違いない。俺の前髪が気になったのだ。
「どうしたの?」
俺が急に黙ってしまったのを気にしたのか、未央奈が俺の顔を覗き込んできた。
「あ、いや、何でもないよ」
「そう、ならいいんだけど」
そう言うと未央奈はいつも通りの笑顔に戻った。
やはり俺のぺたんこ前髪が気になったのだろうか……
いや、気のせいだろう。それに前髪が決まらないくらいでなぜこんなに動揺してるんだ俺は。
と、自分を落ち着かせ、未央奈とのデートに集中することにした。
最初のコメントを投稿しよう!