幼なじみこんふりくと

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6話 間違えた 飛鳥はベッドに横になり目を瞑るが、なかなか寝付けず気づけば朝になっていた。 朝練の準備をしなければと思い、重い身体に鞭打ちリビングに降りていくと母親が驚いたように飛鳥の顔を覗き込む。 「あっくん、顔が真っ赤だけど大丈夫?体温計持ってくるから測りなさい」 飛鳥は母親が持ってきた体温計で熱を測ると38.2℃と発熱していた。 昨日の今日で休むのは昴の様子が気がかりであるし、京一に任せて逃げてきたことに対しても気が引けたが、発熱を自覚すると疲れがどっと押し寄せとても学校に行けるような状態ではないのでおとなしく学校を休むことにした。 学校への連絡は母親がしてくれ、母親が剥いてくれたリンゴを3切れ食べ、市販の風邪薬を飲み横になる。身体は疲れているのに頭がぐるぐると回る。 気が付くと部屋の中は暗くなっており、日が落ちて夜になったのだなということが分かった。飛鳥はよたよたと部屋の入口に行くと電気をつけ、ベッドに戻る。壁にかけた時計を見ると8時を回っており、ベッドサイドには母親が用意してくれたであろう500mlのミネラルウォーターと下着やTシャツ、ハーフパンツ、タオルが置かれていた。 母親の優しさに心の中で感謝しつつ、汗でぐっしょりと濡れている衣服を脱ぎ捨てタオルで汗を拭っているとガチャっと部屋のドアが開いた。 「あっ……すまん。寝てるかと思って」 颯馬がドアを開けた状態で固まっている。 「いいよ、お母さんに見られたくないからドア閉めて入ってきて。パンツだけ先に履くからついでに背中拭いてくれない?」 飛鳥は颯馬に背中を拭いてもらいながら颯馬の話を聞いていた。 「今日、お前も昴も休みだし、お前は電話にもメッセージにも出ないもんだからどうしたのかと思ってな」 飛鳥はずっと眠っていたのでスマホを確認できていなかったが、昨日のこともあるのであまりスマホを見ようという気にもなれなかったため電源を切ってしまっていたことを思い出した。 「すばくんとは連絡がついたの?」 「あ?ああ。昨日の腹痛もあるから今日も休むってメッセージが来たな」 「そっか……」 飛鳥が自分から聞いたのに気のない返事をするので颯馬は不審そうな顔をした。 「昴と何かあったのか?」 そう問われ、昴とのことを話そうか迷ったが、昴は悩んでいたことを颯馬にも話してはいなかった。それはきっと、飛鳥にも颯馬にも受け入れてもらえないし、それを知られることで関係性を崩したくないと考えたからではないだろうか?そう思うと飛鳥は何をどう話していいのかわからず沈黙してしまう。 「飛鳥?……なんでもいい、俺にできることがあれば教えてくれ」 背を向けているので表情はわからないが、颯馬が懇願するようにそう言った。 飛鳥は自分が昴のことを心配したように、颯馬もいつも昴のことを気にかけていたことを思い出した。自分は昴の秘密を知ってしまったため、自分の気持ちを整理してちゃんとお互いに向き合わなければ今までの距離に戻るのは難しいだろう。でも、そうしてしまうと昴は交友関係が狭いのだ。颯馬に傍にいてもらうためにも昴の秘密は伏せた上で今の自分と昴の状況を理解してもらえないかと飛鳥は考えた。 「何があったのか詳しくは言えない。でも……たぶん僕はすばくんをすごく傷つけたんだと思う。でも、それを謝ろうにも何が悪かったのか僕が理解しないと意味がないから……その、そまくんには悪いけど、しばらくは僕に構わずすばくんの傍にいてあげて欲しいんだ」 飛鳥がそう言い終え、返事を待つが一向に答えが返ってこない。 「そまくん?」 何か言いたいことがあるのかと颯馬の方を振り向くと驚いた顔をしていた。 「あ、いや……。もちろん、飛鳥が言うならそうする。でも、なんというか、飛鳥でも正しくないことをしてしまうことがあるのかと思ってな……」 「はは。何それ、そまくんは僕のことなんだと思ってるの」 颯馬が珍しく冗談を言ったのかと思い笑うと、颯馬は飛鳥の腕を掴み真剣な顔をする。 「いつも正しいこと教えてくれる正義の味方」 「そんなこと……ないでしょ」 なぜそこまで自分のことを信用してくれているのかわからないが、颯馬なら何を聞いても真剣に答えてくれそうな気がした。だから、自分には受け止めきれなかったことを、颯馬ならどう受け止めるのか聞いてみたい気持ちになってしまった。 「ねえ、そまくん……もし、さ」 どんなふうに聞けば昴のことだと悟られずに話を聞くことが出来るか考え言葉にする。 「もし、僕が君のことが好きだって言ったら。君はどうする?」 そう口にした直後の颯馬の表情を見て、飛鳥はしまったと思った。 「や、冗談だから……。はは、背中も拭いてくれてありがとう。風邪移るといけないからそまくんはもう帰った方がいいよ。ね!」 颯馬を無理やり押し出すような形で部屋を追い出す。颯馬ももの言いたげではあるが抵抗せずに部屋から出ていってくれた。バタバタと階段を下りる音と、母親の声を聴いて颯馬が帰ってくれたことを確認してその場にへたり込む。 「たぶん僕、また間違えた……」 一瞬見た幼馴染の表情は、今まで見たことのないものだった。 あんなの……男の幼馴染を見るような目じゃない。
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