侵略の奇跡

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 ピンク色の宇宙人との出会いを経た二年後。  僕の書いた小説が、栄えある文学賞の大賞に選ばれたのだ。  だから今日はこうして壇上に登り、報道陣に囲まれていたのだった。  その中で、「どうして小説家になろうと思ったのか」という問いかけがあった。だから僕は、ピンク色の宇宙人の話をしたのだ。 「またしても宇宙人が現れたら、今度はどんな作品を書かれるのですか?」  次の質問を受け、僕はそちらに目をやった。  ふと、中年の男性記者の後ろに、ピンク色の人型が見えたような気がした。  だけど、どんなに目をこらしても、薄暗いせいか良く分からなかった。 「……そうですね。侵略しに来たはずの宇宙人が、梅昆布の魅力に惹かれて、地球と和解する話ですかね」  僕がそう言うと、会場が再び笑いに包まれる。たいして面白いことを言ったわけではないけれど、彼らも場がしらけないように必死なのだろう。  その時だった。  ふいに、鼻先に梅昆布の匂いを感じた。  会場を見渡してみる。やっぱり彼の姿を見つからない。  それでも僕は、会場に向かって笑いかけたのだった。
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