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(疲れた)
緑の葉の隙間から雲に隠された天を仰ぐが、望んだ所で青空を拝めるとは思えないほどに雨は降り続けている。小糠雨であるから雨脚が強くなる気配もないだけが救いか。
(GPSもダメだろうな)
衛星からの位置情報で誰かが迷っていると気付く可能性もないと思い至ると、余計に疲れが増して鉛みたいに感じる体を古木の幹に預けた。
ぼうっと、細い糸を引く様に降る雨と視界を遮る白い靄に視線をさ迷わせ、けぶる辺りの景色を一望してから瞳を閉じる。
深い吐息が漏れた。
(もう、良いのかも知れない)
視界からの情報を遮断してしまえば、嗅覚と聴覚が鋭くなって行く。
自分の呼吸音を無意識に数える中で、もう一つ雨音に似た音がさざめいているのを聴いた。
(ああ)
道管だったろうか、師管だったろうか。植物の中に走る管が水を吸い上げる音だ。
(小学校の理科で聞いたな。人の血管と同じだ)
ゆっくりと持ち上げた手で自分の両耳を塞ぐ。
耳の中に木霊する血潮の音は、雨音にも樹の吸い上げる水の流れにも似ている。
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