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私の名前はしおりと言う。人間ではない。本を挟むあのしおりそのものなのだ。
私の形状を記しておこうと思う。白い細長い色紙に四葉のクローバーの押し花が付いている。そして色紙には「ありがとう」と手書きで文字が書かれている。それをラッピングして出来たのが私だ。
先端には丸い穴が空いていて、そこから赤い紐を覗かせている。私自身は50年以上前のものなのだが、大切に扱ってくれているからか古びれた所はあるけれど、状態は悪くない。赤い紐も悪くなったら変えてくれている。大切にされていると言う気がしてありがたい。
さて、ここでどうして私が50年以上前のしおりなのかを教えておこう。今の私の使用者は現在中学生である本田健太くんだ。彼の祖母に当たる人物が私を作ってくれたのだ。
はるか昔、ある男性が四葉のクローバーを探して、病弱な彼女にプレゼントをしたという。読書家の彼女は大層喜んで、それをしおりにして常に使用していた。プレゼントをしてくれた彼に対して、そして病弱で外の世界をあまり知る事が出来ない彼女が、たくさんの世界を楽しませてくれる本というものに感謝の敬意を表して、「ありがとう」という言葉をしたためて。ちなみにその男性は3年後、彼女の夫になった。
彼女は病弱ではあったが、無理をしなければ穏やかな日々を過ごせた。常に身体に気を使いながらの生活ではあったが、その生涯はささやかな幸せに満ち溢れていた。結婚して8年後に医者からのOKサインをもらい、無事、1人娘を出産した。その後3人の孫にも恵まれて彼女は70歳でこの世を去った。満足そうな死に顔だったという。
さて、この1人娘であるが、母親とは違い、かなり活発な性格だったらしい。どこからどう見ても健康優良児の彼女は、読書をするよりまずスポーツや遊びの方が好きだった。母親も苦労しただろうが、彼女にはそんな娘が面白くてたまらなかったらしい。交友関係も広く、その結果彼女は20代前半で妊娠が発覚し、結婚に至る。彼女は2人女の子を続けて産み、その子達もなかなかにやんちゃで、さすがの彼女も育児に翻弄されたようだった。
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