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鍵は問題なく回せた。
――ガチャ、ギイイイ……。
さび付いた蝶番が嫌な音を立てる。
開けた途端、埃っぽくてムワッとした重苦しい空気が通り抜ける。
何とも言えない臭いまでして、エミリーは戸惑った。
「昔と違う」
家の中は暗くて、あんなに楽しい思い出が沢山あったのに、今見るとおどろおどろしい。
――おかえり。
家の奥の闇から、祖父母の声がした気がした。
まるで、祖父母がそこにいて、笑っている口元だけがクローズアップされているかのようだ。
(あり得ない――)
あり得ないはずが、あり得ると思わせる雰囲気が家の中にあり、ほんのわずかだけ恐怖を感じた。
「そんなはずないか。気のせい、気のせい」
エミリーは、怖れを吹き飛ばすように己に言い聞かせた。
外の爽やかな明るさと正反対の暗く湿った空気の中に突入する。
「あ、しまった! 懐中電灯を忘れた!」
母からは、『電気も水も止めているから、懐中電灯を持っていきなさい』と言われていたが、すっかり忘れて手ぶらで来てしまった。
「窓から差し込む光を頼りに中に進むしかないな」
こんな田舎に不審者もいないだろうと、玄関を開けたまま進む。
雨戸が閉まっている部屋は真っ暗。
サッシを開けると雨戸の開閉に挑戦する。
しかし、スライドさせようとしてもびくともしない。
「何これ、どうやって開けるの?」
日本の古い雨戸に不慣れなエミリーは、上下の鍵に気付くまでかなり手間取った。
それに気づいて外すと、ガタガタと動かせたが、レールに埃が詰まっているのか思うように滑っていかない。早々に諦める。
「何か明かりはないかなあ」
幸いなことに、台所で大型の懐中電灯を見つけた。まだ電池が生きていて、強力な灯りで広範囲を照らすことができる。
「良かった。これ、使える」
それを持って、部屋を見て回る。
子供の頃に遊んだ玩具を見つけた。
「懐かしい! 子供の頃、よく遊んだわ!」
ゴムボール、縄跳び、おばあちゃんの手作りお手玉。縁側で遊んだり、庭で使ったり。こんな田舎では、遊び相手もいなくてつまらないだろうと用意しておいてくれたものだった。
お手玉の中身の数珠玉を庭で集めたのは自分だ。
いつしか必要なくなったが、捨てずにとっておいてくれたようだ。
ふと腕時計を見るといつの間にか一時間も経っていて驚いた。
「思い出に浸っていると、時間が過ぎるのがあっという間」
これではいつまで経っても終わらない。
一々思い出に浸るのをやめにすると決めた。
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