手記11 四方盆村

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「ようやく来たんですね。尚美、私を護って」  私は目を瞑ると、聖域に向かって両手を合わせて祈りました。 「アカダルマ様。どうか呪いを終わらせてください。これ以上、不幸な死に方をさせないでください」  尚美の無念、篠原店長さんの無念、岡島塁さんの無念、根本さんだって、堤さんだって、死にたくなかった。  その無念を晴らし、成仏させてくれるように祈りました。  今の私にできる精一杯のことでした。  充分に祈って目を開けると、先生がその先に進もうとしていたのでビックリしました。 「先生! どこまで行くんですか」 「いい機会だから、血晶石を直接見てくる。ここまで来たら、この先に進んでも同じだからな」 「ええ? ……私も行きます!」  ここまでくれば、その先も一緒。  覚悟を決めた私は、先生の後を追って奥に進みました。  そこには大きな崖がありました。崖は粘土質の土砂で、ところどころ崩落して大きな岩石や木の根が飛び出ていました。 「うわあ! これ、どういうことですか?」  崖下に驚くべき光景が広がっていました。崩れた土と共に、血晶石がいくつも転がっていたんです。  その数に驚きましたが、もっと驚いたことがありました。  新しい血晶石が崖の斜面から頭を出していて、今まさに産まれようとしていたのです。  文字通り、四方盆山は血晶石を産み出していたのでした。 「凄い!」  私は驚き、思わず近づいてしげしげと観察しました。  崖から出てくる血晶石に不思議な力を感じました。絶対に、ただの水晶ではありませんでした。  地面に落ちた血晶石は、どれも二つの球がくっついたような不思議な形でした。  中には落下時に壊れてしまった血晶石もあって、大小さまざまな破片が散らばっていました。  どれもがキラキラと煌めいて、その存在をアピールしていました。  本当に赤が綺麗でした。  小さな欠片一個ぐらいは貰ってもいいかなと思ってしまいましたが、さすがに呪われると分かっていて控えました。  呪いを知らなければ、手に取ってしまったかもしれません。  それほどの魅力の塊が、そこかしこにばら散らばって放置されていたのです。  アカダルマは人々の欲望を利用して呪いを拡散する、という伝承は本当だと思いました。 「これって、いずれは全部出てきて地面に落下するんですか?」 「そうだね。人間が手を出さなくても、自然に押し出される。一つの血晶石が産まれ出るまで25-30年は掛かるそうだよ」 「うわあー」  その動きは人の目では見えません。  でも、自然と押し出されてくることは、周辺の血晶石を見れば想像つきます。  数か月後には、全部が土から出てきて、落下するのでしょう。 「直近で産み出されたのは、数年前だったそうだ」 「次々と産まれてくるんですね」  私は、すっかり自然の不思議現象に心を捕らわれてしまいました。  先生も同じだったようでした。  とても真剣に血晶石を見ていました。 「こんな風に血晶石が出てくるなんて、想像していませんでした」 「不思議な現象だよな」  血晶石は、自ら土中より出てくる不思議な石。こうして産まれてきた不思議な血晶石だから、触ると呪われると言う謂れに信ぴょう性が増します。 「ここも寺領地。もともとは村の所有だった。持ち出しには村人の合意が必要だったが、勝手に持ち出して売るものがいたため、寺に寄贈されたという歴史がある」  私も血晶石の美しさに目がくらんで、欠片一個ぐらいはいいんじゃないかと思ってしまったので反省しました。  ダメですね。
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