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「思い切って聞いてみるか」
勇気ある先生が話しかけることになりました。
私たちが立ち止まると、後ろにいた村人たちも止まりました。
「僕たちに何か用ですか?」
「あんたら智也と均のことを嗅ぎまわっているようだが、村の問題に首を突っ込まないで欲しい」
村の入り口で最初に会った、鍬を担いだ村人が代表で話してきました。
蛇骨家の人と男乕家の人はいませんでしたが、頼まれたのでしょう。
「誤解です。僕たちは、お二人の交友問題に首を突っ込んでいません。アカダルマの呪いについて、学術的に調べているだけです」
「あの二人はアカダルマの呪いに関係していない! だから探り回るな!」
不都合な事実があるのだろうと思いました。
離れたところに、さっきの女の子が立っていてこちらを見ていました。
その子に気付いた村人が、「子供はあっちへいっとれ!」とどなったらどこかに行ってしまいました。
「僕等は学術的見地からそれを調べています。決して興味本位ではありません」
「それも不要だ。とにかく、これ以上何も調べるな」
「分かりました。これ以上は調べません。だから、お引き取り願います」
「絶対だぞ」
村人たちは帰っていきました。
血が流れなくてホッとしました。
あの女の子が座敷わらしで、助けてくれたのかと思いました。
私たちはこれ以上の調査を断念しました。
その夜は四方盆寺に泊めてもらうことになっていたので、一旦戻りました。
「彼らは知っている。男乕均がアカダルマの呪いを利用して、蛇骨智也を殺そうとしたことを。そのことを僕等に知られたくないんだ」
「それであんな脅しを? そこまで怖れることでしょうか?」
「村でアカダルマの呪いが発生したとなれば、不味いんだろう。何しろ、誰かが禁忌を犯したということになるのだから。それと、アカダルマの呪いが外に出れば、自分たちにも被害が及ぶ。それを怖れているんだろう」
「アカダルマの呪いって強力なんですね」
「自分たちに呪いが及んで欲しくないのは皆同じ。だから、村全体で排除に動く。恐ろしいものを遠ざけようとする人間の心理も手伝ってな」
自分に呪いが移らないように、家族に移らないように、いつも通りの日常生活がおくれるように、常に村人は異常がないか目を光らせているのです。
「厄介な事は、人殺しは人助けのためという、間違った解釈に基づいて行動していることだ。アカダルマの呪いを封じるためならば、人を殺しても良いと考えている。彼らは正しいことをしていると、本気で信じているんだ」
「うう……、怖いです……」
「まあ、さすがにいきなり殺すとは思えないが、神隠しに見せかけてってことはあるかもしれないな」
「脅さないでください」
「はは、ごめん、ごめん」
先生は、軽く謝りました。
「これは僕の勘だが、智也は帰っているんじゃないかと思う」
「村人に内緒で?」
「そうだ。アカダルマの呪いを男乕均に掛けられて、逃げ帰ってきた。そう思うのは、家族に捜している素振りがなかったからだ」
私は蛇骨智也の家族を思い出しました。主に話したのは父親だけでしたが。
「あ、そうですよね。家賃を滞納したまま連絡が途絶えれば、大家さんから連絡が行きますよね。そうなると、行方不明のままでは心配するはずですもんね」
智也の家族には、息子を心配する素振りがありませんでした。
蛇骨智也が無事だとしたら、呪い返しが成功したと言うことです。
「彼はまだ何かを企んでいるんでしょうか?」
「どうだろうね。呪いが完全に消えるまで身を潜めていたいのかもしれないし、そうじゃないかもしれないし」
私の肝臓が不要なほど、完治していればよいのにと願いました。
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