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夜になると、先生と私は、ふすま一枚隔てた別部屋に寝床を作って貰いました。
鍵が掛かるわけじゃないけど、ふすまのありなしは心理的には全然違いました。
体は疲れていたのに、いろいろあって寝付けなかった私は、何度も寝返りを打ちました。
とうとう寝るのを諦めて起きていることにしました。
最初は何も見えなかったのですが、闇に目が慣れてくると天井や壁、ふすま、押し入れが良く見えてきました。
何となく嫌な感じがしました。
空気が陽炎のように揺らめいて、私は船酔いのような症状になったのです。
「これは……、来る……」
同じような感覚を何度も経験していたので、アカダルマ出現の予兆だと分かりました。
「先生……」
隣の部屋で寝ている先生を起こそうと声を掛けましたが、来てくれませんでした。
お疲れでしたから、ぐっすり寝ていたのでしょう。
睡眠の邪魔をしたくなかった私は、一人でなんとかしようと思いました。
「どこからくる?」
布団からでた私は、左右前後を見ながら待ち構えました。
何と、私の足元から赤い頭が少しずつ出てきたので、すぐに遠ざかりました。
「出た!」
すると、アカダルマは消えました。
しばらくの間は警戒しましたが、あの嫌な感じが消えたので、私は安心して布団に入りました。冷えた体が温まるのを感じました。
明け方まで、うつらうつらしました。
ふすまの向こうから、先生のヒソヒソ呼ぶ声がしました。
「御堂さん、御堂さん、起きてくれないか」
「起きています」
「今すぐここを出る。着替えて荷物を纏めるんだ」
「どうしたんですか?」
「村人に見られないようにするためだ。住職には話してある」
着替えて身支度を整えると、本堂に行きました。
夜明け前から勤行をする住職は、とっくに起きていました。
「住職、お世話になりました」
「もう出発するのかい?」
「はい。村人たちは早く出て行ってもらいたいようなので」
私は昨夜のことを話しました。
「昨夜、アカダルマが現れました」
「なんだって⁉」
先生は驚いていました。
住職は、「無事でよかったですね」と、ほほ笑まれました。
「でも急に消えたんです」
「あの部屋にはアカダルマ封じの護符が貼られている。そのお陰でしょう」
アカダルマ封じの護符があれば安心です。
「その護符を頂けないでしょうか?」
無理を承知でお願いすると、快く書いていただけました。
和紙に墨で薬師如来様と梵字を書いてくださって、何枚も頂きました。
「これをアカダルマに入って欲しくないところへ貼りなさい」
「ありがとうございます」
私は何度もお礼を言って、護符を受け取りました。
「おお、これは素晴らしい!」
私よりも先生の方が護符に興奮していました。
「真ん中に描かれた仏様は、御本尊の薬師如来様ですね」
「さよう。如来様は、古来よりアカダルマ封じの神力があるとされております。封じるというより、寄せ付けない効果が大きい。こちらの護符を鬼門と裏鬼門に貼るとよいでしょう」
あとで分かったことですが、先生にとって、アカダルマ封じの護符は初見だったそうです。
新しい事実が分かったと、興奮していたのでした。
頂いた護符を置いておきますので、この部屋の入口に全部貼ってアカダルマを封じてください。一枚は、読んだ後の手記に貼ってください。
先生は、新しい知識を得たことをとても喜んでいました。
「四方盆寺の御本尊が薬師如来像であることは知っていた。薬師如来は病苦から人々を救うと言われている。この薬師如来像によってアカダルマ封じが出来るということは、アカダルマの呪いが単なる災厄ではなく、人から人へと感染する病と同等であると考えられていたことの証明になる」
微力ながら、私にもお手伝いできたと思うと、とても嬉しくなりました。
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