手記12 囚われる

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 私が渇きに苦しんでいると、誰かが水をたっぷり含ませたガーゼを口に押し当ててきました。  私はそれで喉を潤しました。  目を塞がれているから誰がやっているか分かりませんでしたが、蛇骨智也なんだろうと漠然と考えていました。  気が狂いそうになりましたが、必ず助けが来ると信じて気を持ちました。  時々やってくる犯人に、私を殺すつもりがないと分かったことも大きかったです。  パニックが収まり、精神的に落ち着けました。  これは後から分かったことですが、私が拉致されて助け出されるまで三日でした。  でも、私には永遠にも思える、とてつもなく長い感覚でした。  信じて待ったかいあって、とうとう助かる時が来ました。  アイマスクがずれて、周囲が見えるようになったのです。  最初は真っ暗でしたが、だんだん見えるようになって状況が分かりました。  そこは20畳ほどの部屋でした。窓はなく、出入口が一つという完全な密室でした。  昼なのか夜なのかも分かりませんでした。  外から足音が聴こえたかと思うと、ドアが開きました。  犯人の顔を見てやろうと待ち構えていると、先生が入ってきました。 「先生!」と叫んだのですが、渇いた口は思ったように動きませんでした。 「ああ、ここにいたか。無事で良かった」  緊張した面持ちだった先生は、元気な私を見て安堵の表情になりました。 「先生!」 「もう大丈夫だ。助けに来た」  私を縛っていた縄がほどかれて、体がようやく自由になりました。  すぐには動けなくて、ゆっくりと筋を伸ばしました。 「ここ、どこですか?」 「使われていないアトリエだ」 「アトリエ?」 「地下にあって、日光が入らない造りになっている」  窓がないのはそのためでした。  地下室では、いくら叫ぼうが声は届きません。 「立てるかい?」 「何とか」  先生に手を引っ張って貰って立ち上がりましたが、長い時間縛られて筋力が落ちていました。歩こうとしてもめまいが起きて真っ直ぐ歩けませんでした。  先生に支えられてなんとか歩くと建物から逃げました。 「こんなところで……」  そこはまだ大学構内でした。先生の研究室が目と鼻の先でした。  人里離れた場所で監禁されているとばかり考えていたのが滑稽に思うほど、近くにいました。
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