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最終章1 エミリーの考察
手記が終わった。
全てを読えたエミリーは、一つのドキュメンタリー映画を見終えたような気がした。
アカダルマの呪い以上に、楓の青天目才舵への想いが切々と書かれていて胸を突く。
あがき、もがき、苦しみながらも愛した、美しい手記。
恐ろしいのは、この恐怖に人類がまだ気づいていないことだろう。
「少し頭を冷やそう」
手記を携えて部屋を出る。
剥がしてしまった護符。
「これでアカダルマは入り放題ってことね」
それらを集めると、仏壇に供えて両手を合わせた。
縁側に出て、夕暮れの庭を眺める。
苔むした石灯籠には、側面に楓の葉が刻まれていることに気付く。
「こんな模様があったのね。これって、アント楓の楓? つまり、これはモニュメントではなくて、墓石ってこと?」
祖父母が元気だったころは、きちんと手入れされていた桜草。今は周りの雑草に負けて枯れかけている。
この下に、楓が埋葬されている気がした。
家族の歴史から消しても、情は残っている。
いつでも目に入る庭に置くことで、忘れないようにしたのだろう。
エミリーは、手記を思い返した。
そこにいくつもの疑問や不審点を見つけてしまって、胸の中にモヤモヤが発生して困った。
一言でいうと、青天目才舵が怪しすぎるのだ。
この明らかに胡散臭い男を、若くて純粋無垢なアント楓は、疑うことを知らず、簡単に騙されて盲目的に心酔していた。
それが歯がゆかった。
青天目才舵は、いつ呪いに掛かったのだろうか。
楓は、自分が移したと思い込んでノイローゼになった。
本当にそうだったのだろうか。
ヒントは、決して外さなかった奇抜な水色のサングラスにあったと思う。
楓は、外した顔を一度も見ていない。
青天目才舵が奇抜なサングラスを決して外さなかった。
もし一回でも外していたとしたら、その印象を書き記すだろう。
そのようなことは一行も書かれていないので、外していないと言うことだ。
二人の間に男女の営みがあったことを匂わせているが、行為に及んでいる最中も外さないなど、あるだろうか?
シャワーを浴びたときも掛けていたのか?
寝ている時も?
こう考えると、二人は書かれていたような仲には、なっていなかったのはないかと疑ってしまう。
玉塚尚美も岡島塁も、発症前に瞳の充血をしていた。
微かな赤みが進行するにつれて、血管が膨張して最後は破裂する。
男乕均は黒いサングラスを掛けていた。
蛇骨智也に近づくまで瞳を見られたくなかった彼は、普段掛けないサングラスを使って呪いの発症を誤魔化したのだ。
瞳の充血度は、呪い発症のバロメーターであったと考えられる。
青天目才舵は、以前に四方盆村を訪問した際にサングラスを使っていなかったことは、住職や村人が証言している。
その時から楓と出会うまでのどこかで、呪いに掛かった。
楓と出会った時には、すでに発症していたと考えられる。
エミリーは、光の三原色を考えた。
色ではなく、光の三原色である。
赤・緑・青が混ざると明るくなる混色方法だ。
緑と青が混ざると水色になり、水色と赤が混ざると白くなる。
この方法で、充血した瞳を白く見せていたのではないか。
目の回りを囲う保護型なのは、サングラスと目の間から充血を見られないためで、決して楓の前では外さなかったのもそのためだった。
やはり、どうしても楓と男女の関係があったとは考えにくい。
青天目才舵は、楓の恋心を利用して、慎重に二人の関係を構築していたのではないか。
楓も最後は気付いていた。
悲しくて残酷な現実に。
それでも後を追って自殺した。
死ぬほど愛した男を追って死んだ。
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