最終章1 エミリーの考察

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 では、なぜ青天目才舵はそうまでして楓に近づき、助手にして、面倒くさい女の相手をしていたのか。  その答えが彼の最後に出ていたように思う。  彼はナイフを隠し持っていた。  呪いが発症して死ぬまでの時間には個人差があるようだから、いつ来るか分からない。  つまり、いつその時となっていいようにナイフを準備していたはずだ。  彼は本音で自分の腹を切り裂き、その肝臓を楓に食べるように言うつもりだったのだろうか?  いや、そうじゃない。楓の肝臓を食べようとしていたのだと思う。  地下室に閉じ込めて、楓の発症を待っていたと考えた方が自然ではないか。  自分が死ぬ前に楓が呪いで死ねば、その肝臓で助かると考えていたのではないか。  あいにく他の候補者たちは、接触する前に亡くなっていたり、行方不明になったり、発症しなかったり。一番都合が良かったのが楓だった。  そこで楓の好意に気が付いた青天目才舵は、それを利用した。  助手にしてそばに置き、自分を好きになると交際を始めた。  楓は愛するゆえにみじんも疑いを持たなかった。自分を助けるためにナイフを持ち歩いていたと思い込んでいた。  蛇骨智也についても、警察への通報を止めさせるために青天目才舵が何かしたんじゃないだろうか。  男乕均の遺体から肝臓を盗んだのは、蛇骨智也の仕業であろう。  これも青天目才舵の仕業なら、それを食べて呪い返しすればいい。  通報しなかった理由は、蛇骨智也を捕まえて欲しくなかったからだと考えれば、筋が通る。  楓の体から肝臓を取り出したあと、蛇骨智也の件を通報すれば、同じ手口と考えた警察が自分に疑惑の目を向けずに蛇骨智也を捜すだろう。  そうして、蛇骨智也に自分の罪を着せるおぞましい計画まで立てていたのではないか。  楓を監禁した犯人は、蛇骨智也ではなく青天目才舵だ。  助けに来た青天目才舵のタイミングが良すぎる。  貰い主が負担になる、それも本人が苦手な生ケーキを出入り業者は贈らないだろう。  それを贈るなら、生ワサビの方がよっぽど喜ばれる。  高級とはいえ生ケーキを贈った理由は、青天目才舵に頼まれたから、もしくは、自分で買いに行った。  自分で買ってきたと言った方がポイント高いのに、貰ったと言って食べさせた。貰い物と言った方が疑われにくくなる。  それこそ冷静に考えれば、隠された意図が露わになる。  監禁している間に楓が発症、肝臓を取り出す計画でいて、死なない程度に水を飲ませていた。  ところがいつまで経っても楓の呪いは発症せず、自分の方が時間切れとなってしまった……。  手記を読んで生じた疑問と不審点を突き詰めていくと、エミリーに恐怖が生じた。  それこそが、この事件における一番の恐怖であろう。  それは、アカダルマの呪いよりももっと恐ろしい。
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